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五枚の花弁が実る春
五.サクラ咲ケ

 やっと、受験が終わる。長かったような、短かったような。一つだけ言えることはセンターは二度と受けたくない。
 学校に私服で入るという状況が新鮮で少しだけ緊張する。もうここの学生じゃないんだ、というのが少しだけ残念。
「失礼します」
 先生の名前を呼ぶと、こちらを振り向いて手招きする。ちょうど他の人はいないみたいだった。
「あの、なんとか受かりました」
「おめでとう」
 そういって笑顔を私にくれた。合格したのが夢みたいだったけど、こういってもらえてやっと実感がわいたような気がする。
「ここからじゃ遠いよな、下宿か?」
「そうですね」
「ホームシックにならないようにな」
「なりませんよ!」
 冗談を交えながら、楽しく会話をする。こうやって話すこともなくなるのか、まあずっと会わなくなるわけじゃないけれど、それでも寂しい。
「お前は一人で貯めこむことが多いから、ちゃんと誰かに相談しろよ」
 そう言って頭を優しく撫でるてくるから、涙が零れそうになった。
 ちゃんと見ててくれた先生に、恩返しになってるかはわからないけれど。でも、自分の行きたい所に行くことが出来てよかった。きっとそれが一番の恩返しだと思ってるんだ。
「大学での勉強、すごい楽しみですよ。まあ、大変なことはたくさんあるんでしょうけど」
 先生は、呆れたような瞳をこちらへ向ける。
「そこまで心配することもないだろ、情報を聞き漏らさなきゃな。それに、お前は大学の勉強のほうが向いてる」
 それってどういう意味なんだろうか、聞いてもはぐらかされそうな気がするので聞くことはしないけれど。
 他のみんなも受かっていたらいいな、なんて思う。もちろん尋ねるなんてことはできない。
 最後にありがとうございました、と深く礼をして職員室を後にする。廊下には合格者の札がかかっている。私のものもかかっていた。そういえば、お母さんに写真とっておいてと言われたことを思い出した。携帯を出すのに人目を伺っている自分に気づき小さく笑う。
 写真を撮り終わり、これでもう心残りはない。
 靴を履いて職員玄関から外に出る。歩き出そうとすると、強い風に髪を乱される。その風に乗って、桜の花びらが目の前を通って行く。そういえば、桜の満開は今頃だったっけ、と天を仰ぐ。そこには大きな桜の樹があった。一つ一つの花々が競うように咲き誇っていた。

2014/3/11


多くの仲間達の心にサクラ、咲き誇れ。



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