目撃者の心境(メギド/デカドラ)
2019/05/14 04:25

 レラジェがその日アジトにいたのは、フルフルがその日の夕食を作る担当だと聞いたからだった。山暮らしが長い彼女はもちろん仕留めた獲物で自炊生活だが、それでも人の作る料理はたまにいただくと美味しいし、ことにフルフルはアジト一の料理上手だ。たまに開店する店は繁盛しているとも聞いている。うきうきとした気分だったのだが、廊下の向こうで話しているらしい二人組の姿を見て、思わず立ち止まった。遠くのものもよく見える良い眼の持ち主であることを自負しているレラジェだったが、このときほどそういうからだに産んでくれたヴィータの両親に感謝したことはない。
 遠くの方には夕焼けのような鮮やかな橙の髪が揺れていて、その隣には真っ黒なマントと先が折れ曲がった三角帽子が見える。アンドラスとデカラビアだった。
 割とよく出会すし話す機会も多いのだが、如何せん彼等はその性格だとか性質がレラジェには理解できないもので、正直なところ用がないのならあまり一緒に居たくない人物の筆頭候補である。割り振られた自室で夕食を待とうかと思っていたのだが、あいにく回り道をしようとしたら時間がかかるし、かといってよりによってあの二人である。近くを通り過ぎるだけでもひと悶着ありそうな気がして、ならば諦めて談話室にいようか。歩みを止めて考え込んでいると、真っ黒な帽子が少しだけ傾いたのが見えた。音だけなら拾えるが、遠すぎて何を言っているのかもわからない二人のやり取りに、波が起こったのだなというのだけは理解した。
 揉めているのだろうか? だとしたら、ますます近付きたくない。やっぱりさっさと逃げようかな。と考えると同時に、アンドラスが左手で、帽子の鍔を摘まむのが見える。そのまま下に引いて、デカラビアの顔がまるっと鍔に隠れて、恐らくあれではお互いの顔など見えるまい。むしろ頭が収まるはずのスペースが目元に被っているし、後頭部のほぼ全部が見えてしまっているし。からかっているのかな、……あいつらあんなに仲良かったか?
 帽子におさまって見えていないはずの、額の上にアンドラスが口付けるのを見て、レラジェは迷うことなく振り返って、それ以上を見ないように、見なくて済むように逃げ出した。足音を立てないように。なるべく早足で。
 今度からは、あの二人が揃っている場には極力出くわさないようにしたい。とりわけ、二人きりでいるときは。
 面倒なことには巻き込まれたくないのだ。あの二人は素直で快活な性格に近いレラジェにすら、そう思わせる要素のある二人だ。そんな二人があんな風にふざけあう仲だとか。別にそれ自体は全く構わない。ただ、正直避けたい奴と避けたい奴とが二人組でいるなんて、二倍に嫌だと思っただけだ。うまい具合にやってほしい、私の居ないところで!
▼追記
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