悴む指先(メギド/デカドラ)
2019/03/28 22:39

※捏造は標準装備。
※付き合ってる二人の話です。


 元々、デカラビアは体温が高い方ではない。ただメギドであった頃には問題はなかったのだが、ヴィータとして生きている今では、じわじわとその体質が彼の睡眠を妨げていた。脆いヴィータの体は怪我だけでなく病気にもなりやすく、少しの寒い暑いですぐに体調を崩してしまう。デカラビアを悩ませているのは正にそれで、冷えきった空気のアジトでは寒くて目が冴えてしまうということが度々あった。そんなときには自分の部屋から抜け出して、長い廊下を伝った先のアンドラスの部屋に忍び込む。暖かい温度を求めてふらつきながら潜り込んだベッドで、触れる体温もまた高くはないと知っている。
 それでも凍えて過ごすよりはマシだと、冷たいからだをアンドラスに押し付けている。そうしているとすぐにアンドラスは目を覚まして、迷惑そうな寝惚け面を見せるのだ。悪くない見目の男が整わない姿を見せるのは案外面白いと初めて知った。
「君は冷たいな…」
 普段よりも回らない舌でぼんやりと呟かれる不服を、デカラビアはいくらかはマシになった体温と共に受け入れている。温くて心地好いと言うには程遠かったが。
 けれども同じベッドの上でふたり、仲良く同じ羽毛に包まれても寒くて仕方がなかった。当然と言えば当然で、方や体温が低い体質で冷え症ですらあるデカラビアと、方や低体温ではないものの決して平熱が高くはないアンドラスだ。二人で温め合うにしても、肝心の生み出せる熱がない状態だった。布団と毛布を被っているのに、体温は奪われていく一方だとアンドラスは考えていた。自分だけならば凍える事もなく眠りにつくこともできたのに、これではただ寒さで起こされただけだ。
 それともデカラビアは、寒さのあまりに体調を崩したのだろうか?
 曲がりなりにも医者の真似事をしている。普段から寒さ暑さに弱いらしいデカラビアを見ていると、それが原因で病気になってもおかしくはないと思う。手を額に当ててみるが、ひんやりとした感触があるだけで、熱を出しているわけでもなさそうだ。低体温症と言う程でもないだろうが、具合が悪そうな仲間を目の前にして、放っておく理由もアンドラスにはない。それにこの日はいつにも増して空気が冷えきっていた。
「……デカラビア、服を脱げるかい」
 何をする気か、何をさせる気なのかはデカラビアにも理解できた。体温を分け合って暖まるには、衣服を身に付けているよりも素肌で触れあう方が効率がいい。声には出さずに布団の中で寝間着を取り払い、より温度を感じやすくなるように、アンドラスも同じように下着一枚のみを纏って、デカラビアの震えを治めるように抱いてやる。腕を回した先の背中が冷たいことにはもう驚かない。あまりに彼がアンドラスを訪ねてくる頻度が高くて、寒さには滅法弱いことをもう知っていた。翌朝には既に通常通りのデカラビアを目にしていたが、訪ねられる度に熱を上げていないかを確認するのを最早通例のようにも思っている。
 それでも、おとなしく「服を脱げ」と言われたままに従う彼は、きっと寒さに脳を侵されている。
 悴んでまともに動かない指先でアンドラスの頬をやんわりと撫でて、血色の失せた唇を寄せる。何が起こったかは理解したが、アンドラスには意味がわからなかった。行為自体は一般的に愛情を表現するものだが、今の今まで彼からこんな風にわかりやすく示されたことはない。空色の瞳と目が合ってすぐに視線を逸らされても、アンドラスにはこれの意味するところがわからないままだった。もう一度名前を呼ぼうとして、開きかけた下唇を緩く歯で挟まれて、ぬるま湯のような感触で撫でられて、やっとこれが彼なりの温度の求め方なのだろうかと思うくらいには思考が回り始める。それなら好きにさせておいてもいいかもしれない。まさかあの王の下に付く現状で、仲間を死体にする事はいくら彼でもしないだろうから。



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