にがいあまいくるしい(HQ/菅及)
2014/12/09 00:36

初めて練習試合をしたときに目があった。
一度目の公式戦でも目があった。
二度目の試合ではお互いに避けた。
そんな二人の真冬の邂逅だった。

あっ、と、げっ、の一瞬の二重奏がコンビニの前で奏でられる。片や柔らかな笑みを浮かべた銀灰の癖っ毛の少年、片や甘い目元の眉根を寄せた長身の目立つ少年。休日の昼間、偶然の邂逅を喜んでいるのは前者だけだった。
「うええ、なんでえ?なんでいるの?」
「え、俺は本屋に行った帰りなだけ」
「最ッ悪」
顔を背けて舌まで出して悪感情を露にする及川に、菅原は肩を竦めて苦笑いするだけだ。
「そんな嫌がらないでくれよ。傷つくだろ?」
「君が女の子だったとしても同じ反応しかしないよ」
「それは酷いな」
何に対して酷いのかは、及川は考えない。

店内に入ると空気が変わる。手袋を外しても平気になった環境が、及川を少し落ち着けた。菅原は一直線に温かい缶コーヒーが並べられた棚へ歩く。及川はレジの前で蒸し器の中をじっと見つめていた。
しばらくすると菅原が棚から離れた。手には何も持たず、レジの端にあるコーヒーメーカーを視界に捉えると、同時に及川がガラスの箱から身を離して財布を取り出す。
「お、決まったのか」
「爽やか君には関係ないでしょ」
「俺コーヒー飲みたくてさあ。寒いよな」
「聞けよ」
「え、関係ないから俺は自分の話振ったんだけど」
「知るかよ」
及川さん口悪いですよ、とからかいが飛んできて、それを聞く身は心底気に入らない。聴覚のオンオフの機能がついていればいいのに。
先にレジに並んだのは菅原で、及川はその後ろについた。財布を持つ手は暖まったまま。
会計を済ませた菅原は、コーヒーの出来上がりを移動して待つこととなった。及川はあんまんを単品で頼み、包装を待つ間に小銭をいくつか取り出して受け皿に置いていく。そうこうしているうちにコーヒーを片手に菅原が、及川を迎えに満面の笑みで駆け寄ってくる。犬かよ。
「つぶあんか」
「それしか無いじゃんここ」
「甘いもの好きだよな、及川は」
「お腹減ってるだけですー」
嘘こけ牛乳パンしょっちゅう食ってるの知ってんぞ。そんな言葉をブラックコーヒーと一緒に飲み込む。コンビニを出たのは及川は嫌々だったが同時だった。
がさがさ、ビニール袋と包装紙を剥がして真っ白な温かい生地を一口及川は頬張る。つぶあんの端っこが黒く顔を覗かせた。うん美味い、と一人頭の中でだけ満足を得て、ほうと白く息を吐く。からだの中から暖まる感じがたまらない。実は寒い時期はあまり牛乳パンは買わないのだった。
うん、これで一人きりだったら最高だった。
「ブラックコーヒーってさ、喉に膜が出来る感じするよ」
「あっそ。……あんまんはけっこうお腹にたまる」
「食い物だしな」
紙のカップにはまった蓋の飲み口が少し小さいのが気になる菅原は、熱すぎるコーヒーが少し冷めるのを待っている。温かいものの誘惑に負けてちびちびと飲んでいるけれど、一気に口に含むことができず時たま「あちっ」と舌を出した。
その間にもあんまんは次々及川の口のなかに収まっていく。鉄は熱いうちに打つし、温かいものは温かいうちに食べてしまうのが一番だと言うのは及川の持論だ。おかげで少し胃がいい具合に満足してくれた。
「寒いなあ」
ぽつりと菅原がこぼした声を、目を瞑って聞き流す。
あんまんのおかげで暖まった手に手袋を嵌めてポケットに突っ込んだ。
「……言いたいことがあるなら言いなよ、気持ち悪いな」
「えー、やだよ。そしたら及川は逃げるだろ」
「何だよそんなこと言おうとしたの?」
「わかってそうだと思ったんだけどな」
さっさとしてくれ。こっちはもう焦れに焦れている。
腹の底に溜まっているそれを、菅原と会ってしまったせいで存在感を主張しているそれを何とかしたくて、せめて甘いもので中和したかったけれど、それが失敗に終わったことを及川は悟った。胃にはたまって空腹を何とかしても、感情は甘くはならなかった。
菅原も、口から吐き出しそうになるそれを、自分の感情をすべて乗せたそれを、見せることを良しとしたくなくて、苦いもので飲み込もうとしたかったのに、結局喉の乾きが潤ったくらいで、いっそう苦々しい気分になっただけだった。
なんだこれ。どうしてこんなことになっている。

初めて練習試合をしたときに目があった。
一度目の公式戦でも目があった。
二度目の試合では、お互いに避けた。

そんな二人の、真冬の邂逅だった。




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最近のロ○ソンはすごく私好みです。

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