第七話

玄関の扉を開ける。
外の光がいつも以上に眩しく感じた――――。



2人はアパートから程近いショッピングセンターに来ていた。
幸村の目の前に広がる光景は想像を絶するもので、すでに頭の処理能力が完全に追いついていなかった。
ただキョロキョロと視線をさまよわせることで精一杯だ。
そんな幸村がはぐれないように政宗はしっかり手を握っていた。
そして子供服売り場に辿り着く。

(Shit・・・!)

平日だから人が少ないと思ってたが、そんなことはなかった。
しかも組み合わせは母親と子供ばかりだ。
そんな中、若い男とコスプレな格好をした子供が入れば嫌でも目立ってしまう。
自分の考えの甘さに政宗は舌打ちをする。
売り場にいた人達の好機の眼差しが痛いほど肌に感じた。
さっさと済ませてしまおうと近くに掛けてあった服を適当に掴む。
目の端に店員がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。
そこで政宗はすかさず『寄ってくるな。話し掛けんな。』オーラ(?)を出す。
すると店員はそれを察したのか、それ以上近寄ってくることはなかった。
当然幸村もその鬼気迫る気を間近で感じ取る。

(政宗殿、流石でござる!いつの世におろうとも独眼竜の覇気は健在でござるな!)

素早い動きで服を選んでいく政宗を爛々とした表情で見つめた。
いくつか服を適当に選び、足早に政宗と幸村はレジに向かった。
ここでも店員の視線が痛い。
さっさと会計を済ませ、逃げるように売り場を離れた。
そして近場の男子トイレに駆け込み、個室に2人で入った。
なぜか頬を若干赤らめ顔を俯かせている幸村に政宗は口を開いた。

「脱げ。」

予想もしてなかった発言に幸村は驚き口をぱくぱくとさせた。

「さっき買った服に着替えるんだよ。」
「・・・!・・・そ、そうでござったな・・・。」

幸村は自分が想像していた事を隠すように妙な笑顔を零した。
政宗はそんな事など露知らず、服に付いた値札の糸を次々と噛み千切る。

「脱いだらこの袋に入れろ。」
「はあ・・。」

身に付けた具足を言われた通り袋の中に入れていく。
その一つ一つが案外重いことに政宗は少し驚いた。

「ぬ、ぬいだでござる・・・。」

少し頬を染めながら報告する幸村に、若干心が動いたのは当然奥底にしまっておく。

「よ、よし。まずズボンからいくぞ。」

そう言って幸村に小さな黒いズボンを手渡す。

「履き方は袴と同じだ。やってみろ。」
「しょうち。」

右足、左足を通し、腰まで上げる。

「なにやらきゅうくつでござる。」
「Good.それでいいんだよ。そしてこいつはボタンとチャックだ。こうやって・・・こうする。」
「ほお!これはべんりですなぁ!こしひもがいらぬとは!」

チャックを上下に動かし、感嘆の声を上げた。

「ちなみにそこ開けたままだと恥ずかしい思いをするから、絶対閉めとけよ。」
「そうなのでござるか?!わかりもうした!」
「次はTシャツだ。片腕出せ。」

そう言われ、幸村は右腕を出す。

「まず片腕を袖に通して・・次は左腕に通す。最後は首を通してfinishだ。」
「ものすごくはだざわりがよろしいですな。きぬのようでござる。」
「現代人は肌が弱いんだよ。最後はパーカーだ。Tシャツと同じように着てみろ。」

幸村に赤いパーカーを手渡す。
先程と同じように今度は自分一人で着てみた。
首を通すとフードが自然に被さる。

「これでいいでござろうか?」
「OK.フードは脱いだ方がいいな。」

フードを脱がせ、後ろで一括りされている髪を外にだしてやる。

「よし。だいぶ時代にあってきたな。あとは靴を履けば完璧だ。」
「くつ・・?」
「俺が今履いてるようなやつだよ。これは試着して履き心地を確かめねぇと後で泣きを見るからな。」

幸村に見えるよう足を少し上げ、履いているスニーカーを見せる。

「なにやらむずかしそうなものでござるな。」
「HA!こいつはちぃと無理かもな。だが心配すんな。ガキ用のものがある。それならアンタでも大丈夫だ。」
「ほお。」
「仕方ねぇ。そのままで行くか。」

草履を履いた足元だけがまだ戦国時代だった。
具足を入れた袋を取り、個室から出る。
トイレから出た政宗は幸村に手を差し出した。

「アンタが行方不明になったら目覚めが悪ぃ。」

その手を幸村は眩しいくらいの笑顔で握り返した。



幸村の身なりが一部を除いてマシになったせいか、他人の視線をあまり感じることなく靴を買うことが出来た。
買ったのはマジックテープタイプの靴だった。
これで見た目は完璧に現代人になって、ようやく政宗は一安心する。
ついでに夕飯の食材も買って帰ろうと思い、馴染みの肉屋に来ていた。

「今日はハンバーグにでもするか・・。」

ちら、と幸村を見るとケースに陳列している肉を凝視している。
確か戦国時代は肉を食べる習慣が無かったような気がしたが、別に了承を得る必要は無いだろうと思い、敢えて聞くことはしなかった。
合い挽き肉を買い、商品を受け取る。
そこで幸村がふと口を開く。

「どうぶつのにくもひとのにくとたいさござらんな。」

その発言に政宗と店の主人は固まった。

「またひとつべんきょうになりもうした!」

屈託のない笑顔でえげつない発言をする幸村の頭を取り敢えず一叩きしておく。
目を丸くしている肉屋の主人に変な愛想笑いを掛け、足早にその場から立ち去った。



やはり幸村はこの時代の人間ではない、と改めて思う。
あの後、幸村に見慣れたものなのか、と聞いてみた。
すると顔色一つ変えずそうだと言った。
戦場で自分の主君のため、自国のために槍を振るうのだと。

「たくさんのいのちをこのてでうばってまいりました。・・・そのかんしょくがきえることはござらんのでしょうな。」

小さくなった手をじっと見ながらそう言った。
きっと年端もいかない頃から人を殺めてきたのだろう。
そうしないと生き残れない過酷な時代。
現代を生きる政宗にはその状況が容易に想像できないが、なぜかほんの少しだけ幸村の気持ちが分かるような気がした。

「今アンタはこの平和な時代にいる。その間だけ忘れてもバチは当たんねぇよ。」
「まさむねどの・・・。」
「今を楽しまねぇと損だぜ。幸村。」
「・・・かたじけのうござる。まさむねどのはおやさしいおかたなのですな。」

幸村の思いも寄らぬ言葉に政宗は頬に熱が集中するのを感じた。

「ばっ・・・!そんなんじゃねぇ!!」

政宗はそう叫ぶと赤らめた顔を隠すように早足になる。

「ま、まってくだされ〜!まさむねどの〜!」

幸村は先を行く政宗を必死に追いかけていった。

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