第六話

「さて、とメシ作るか。」

家康を見送った後、政宗は伸びをしながら言った。
まだ落ち着かない様子の幸村をちら、と見る。
幸村は家康が出て行った後の玄関をじっと見つめていた。

「幸村。」

政宗が呼びかけに気が付いたようで、ゆるゆると視線を向ける。

「家康がどうかしたのか?」
「・・・・いえ、なにも・・・・。」
「そうか。ところで何か食いたいもんがあるか?」

政宗の問いに幸村は数回瞬きをした。

「もうそんなじかんでござるか?ゆうげにはまだはやいようなきが・・」
「夕餉?・・そうか。アンタの時代では昼ご飯が無ぇのか。」
「いくさのときいがいはとりませぬな。」
「Hmm・・・ま、何でもいいよな。」
「はい!まさむねどののおすきなものをおつくりくだされ!」
「OK.じゃあすぐ作ってやるからテレビ見て待ってろ。」
「しょうちでござる!」

幸村は言われたとおり、テレビの前に座り電源をつけた。
テレビの操作はもう覚えたようである。
政宗は冷蔵庫を開け、何を作るか視線を巡らせた。


しばらくすると、醤油のような香ばしい匂いが漂ってきた。。
その香りが幸村の食欲を存分に掻き立てる。
程なくして台所から政宗の声が掛かった。

「できたぞ〜。」

その声に一目散にテーブルに駆け寄り、椅子に座った。
目の前に湯気を立てた茶色い麺のようなものが置かれる。

「とてもよいかおりをただよわせておりますな!このりょうりはそばでござろうか??」
「そうだな。そばはそばでも”焼きそば”って名前だ。」
「やきそば・・・。はじめてはいけんしもうした。」
「そりゃそうだろう。最近の食べ物だしな。伸びる前に食おうぜ。」
「はい!では、いただきまつる!」

両手を合わせ深く頭を下げる。
そして少し大きめの箸で麺を掴むと、ズズッと勢いよくすすった。

「ぅうまいでござるぅぅぅ!」

幸村の知っているそばとは違い、焼きそばは濃い味付けで本当に匂い同様香ばしくおいしかった。

「いちいちreactionがデケェな。」
笑みを零しつつ政宗も焼きそばをすすった。

「まっことまさむねどのはりょうりのうでがいちりゅうでござるな!!」
「当たり前だ。もっと誉めやがれ。」
「なればこのゆきむら!このこころのたぎりをぜんしんでひょうげんいたしまするぞおぉぉぉ〜!」

「えっ・・・?」

ガタタッと音を立て幸村は椅子から降りた。
そして両手で拳を作り、その場で踏ん張るような姿勢をとる。


「み・な・ぎ・るぅあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜っ!!!!」


両の拳を天高く上げ、絶叫した。
それは幸村が戦場でよくするポーズであった。
大体気持ちが高ぶった時や、気合いを入れる時などに行う。
しかし政宗はそんな事を知る訳もなく、つかつかと幸村に近付くと勢いよく頭をはたいた。

「ぬおっ?!」
「デケェ声出すんじゃねぇ!!」

鋭い隻眼で射抜くように睨み付ける。
それは幸村の知る戦国の世の政宗を彷彿させた。

「アンタの気持ちは分かったから早く食え!」

幸村の首根っこを掴み、強制的に椅子に座らせる。
その際「ぐえ」という声が聞こえたが政宗はスルーした。

「ごほっごほっ・・・!・・・・はいぃ・・・。」

すっかり滾る気持ちを消され、若干涙を浮かべながらおとなしく食事を再開する。
その様子に政宗は溜息を一つ零した。

「ここは俺一人で住んでるわけじゃねぇんだ。今みたいに大声出したりすると隣の住人から文句言われたりするんだよ。」
「もうしわけござらぬ・・。」
「分かりゃいいんだよ。悪かったな叩いたりして。」
「わるいのはそれがしのほうでござる・・・!それに、ひびおやかたさまとなぐりあいをしておりましたゆえ、なれておりまする!」
「・・・どんな主従関係だよ・・・。」


食べ終わった食器を片付け、政宗は幸村に声を掛ける。

「今からアンタの服を買いに行くぞ。」
「ふく・・でござるか?」
「ああ。今のその格好じゃ外に出た時目立つからな。」

幸村の身に付けているのは赤い具足だ。
体が縮んだときに服も一緒にそうなったらしい。

「たしかにまさむねどののきているものとそれがしのはちがいますな。」
「見た目はガキだからそのままでもいいんだが・・・目立ちすぎると色々と面倒臭ぇ。」
「それがしはまさむねどののおおせのとおりにします。」
「よし。じゃあ早速行くぞ。」

政宗は財布だけをズボンのポケットに押し込み、玄関で靴を履く。
幸村もそれに続き、急いで草鞋を履いた。

初めてこの部屋から出ることで若干緊張する。
それを見抜いたのか政宗はドアを開ける前に幸村の頭に手を置いた。

「大丈夫だ。アンタの戦に比べればどうってことないぜ。」

政宗の言葉と伝わる体温に不思議と緊張が解れる。

「まさむねどのにふれられるとおちつきまする。」

はにかみながらもそう呟く幸村に不覚にもほんの少し胸が高鳴った。
これが母性本能というものだろうか。
(いやいや。俺、母親じゃねーし。そもそも女じゃねーし。)

「・・・そりゃどうも。」

自分の心情を隠すように政宗はパシパシと2回幸村の頭をはたいておいた。

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