第五話

政宗はこれでもれっきとした学生だ。
去年から実家を出て、それなりに学生生活を楽しんでいる。

今日の講義は午前中だけだ。
それも終わり、鞄に参考書やノートをなおしていると「政宗」と呼ばれる。

「おう、家康。」

同じ学部の徳川家康が人懐っこい笑顔をして声を掛けてきた。

「今日はお邪魔するよ。」
「・・・・what?」

家康の言っている事に記憶がないのか、政宗はきょとんとした表情で聞き返した。

「おいおい、忘れてたのか?今日、お前の家に預けていた”忠勝”を取りに行く日だったろ?」

そう言われ政宗はようやく家康との約束を思い出した。
”忠勝”とは生き物ではなく、家康愛用の折り畳み自転車の事である。
家康が住んでいるアパートの駐輪場が工事になるため、終わるまでの間政宗が預かっていた。
なぜ政宗が預かっていたかというと、単に家康の部屋は物が多すぎて入りきらなかったからだ。
ちなみに預かっている間、用心のため部屋の中に入れておいた。
その”忠勝”を渡すのが今日だったのだ。

「・・・・sorry,すっかり忘れてた。」
「いや、いいんだ。こちらから無理言って預かって貰ってたからな。お前の都合が悪いならまた日を改めるよ。」
「何言ってやがる。約束は約束だ。今から取りに来いよ。」
「・・・そうか?本当に大丈夫か?」
「Don't worry.変なのがいるが問題ない。」
「変・・なの・・・?」
「Ah〜・・・ほら、行くぞ。」

乱雑に物を詰め込んだ鞄を取ると、横にいた家康の背中をバシッと叩き部屋から出る。
家康は困惑した顔でその後についていった。



政宗のアパートは大学から歩いて10分ほどの場所にある。
家康と何気ない話をしながら歩くとあっという間に着いた。
4階建てで2階の一番端が政宗の住む部屋だ。
エレベーターは無く、階段で上がっていく。
(アイツ、変なことしてねぇだろうな。)
ポケットから鍵を取り出し、鍵穴に挿し込んで開けた。
そしてドアを開ける。


「おつとめごくろうでござる!まさむねどの!」


目の前に幸村が正座をして出迎えてくれていた。

「Oh my・・・」

律儀な幸村ならこういう事をしてくるだろう、という政宗の予想は見事的中した。
後ろにいる家康をちら、と見ると、案の定目を丸くしている。

「幸村、出迎えはありがてぇんだがそういう堅っ苦しい事はしなくていいからな。」
「そうでござるか?」
「ああ、そうでござるよ。ったく・・・家康、入れよ。」

後ろにいた家康は興味津々な顔をしている。

「政宗には子供がいたのか。」
「Shut up.そんなjokeはいらねぇ。こいつは親戚の子供だ。」

家康の洒落を容赦なく一刀両断にする。

「ハハハ、そうか。すまんすまん。じゃああがらせてもらうぞ。」

そう言って家康は靴を脱いで部屋にあがった。
そして目の前の幸村と視線を合わす。
幸村もまた家康と視線を交わらせた。

(徳川・・・・家康・・・殿っ?!)

家康の顔を見た途端、幸村の表情は一瞬強ばった。
ここに来る前に戦をしていた相手と瓜二つの顔だったからだ。
家康はそうとは気付くはずもなく、笑顔で幸村に話し掛けた。

「儂は徳川家康。政宗の友達だ。お前は?」
「・・・・それがしはさなだゆきむらともうす。」
「ゆきむら、か。いい名だ。よろしくな。」

そう言って幸村に大きな手を差し出した。
一瞬ためらったが政宗の手前断るわけもいかず、素直に家康と握手した。

「悪いな、急に来て。すぐに帰るから辛抱してくれ。」

家康は手を離すと政宗のいる部屋に向かって行った。
(顔も名前も同じ・・・。)
よもや政宗以外にも幸村の知る顔がいるとは思っていなかった。
全身が総毛立つような感覚になる。
とはいっても、別に家康を恨んでいるのではない。
戦国の世で自国が攻め入られるのは至極普通の事だ。
その戦に敗れるのは理由がどうあれ大将の責任である。

「・・・・・」

己の不甲斐なさに幸村はぎり、と奥歯を噛み締めた。

「政宗!!忠勝を磨いてくれたのか?!」

隣の部屋から聞こえる家康の声に幸村はハッとした。

「暇だったからな。礼は学食で手を打ってやる。」
「お安い御用だ!忠勝!良かったなぁ!!」

(忠勝・・殿っ?!もしや本多忠勝殿がおられるのかっ?!いつの間に?!)
その姿を確かめようと、幸村は急いで政宗達がいる部屋に走っていった。
そこには政宗、家康以外人はいなかった。
しかし家康は喜々とした顔でしゃがみ込み、二つ車輪がついたものをしきりに撫でていた。

「ただかつどのは・・?」

ぽかんとした表情で幸村は呟いた。
それに政宗が答える。

「Ah?”忠勝”っつーのはアイツの自転車の事だよ。名前をつけるぐらい大事にしてるようだな。」
「せんごくさいきょうをほこったただかつどのが・・・あんなにちいさく・・ほそくなられるとは・・・・。」
「??どうした??」

つい心の中の声が口に出てしまい、政宗が訝しげな顔でこちらを見ている。

「いえ!なんでもありませぬ・・。」
「?」

幸村の様子に政宗は首を傾げた。



「政宗!本当にありがとう!感謝する!」

家康が満面の笑みで忠勝を抱え、政宗にしつこいぐらい礼を述べる。

「学食、俺に奢るの忘れるなよ?You see?」
「ああ!心しておこう!」
「よし。じゃあ用が済んだらとっとと帰りやがれ。」
「ハハハ、手厳しいな。じゃあこれで失礼するよ。」

家康は忠勝を慎重に玄関まで運び、靴を履く。
そこでくる、と回り、幸村を見た。

「じゃあな、”真田”。また、会おう。政宗、また明日!」
「・・・・!・・・さ、さらばでござる。」
「気ぃつけて帰れよ〜。」

爽やかな笑顔を残し、家康は帰っていった。

[ 5/115 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -