第十六話

ちゅんちゅん、と雀が鳴く声にうっすらと目を開ける。
そこには見慣れない天井があった。

(・・・・・・ここは・・・どこだ・・・・?)

未だはっきりしない頭に軽く手をあてる。
眉間には皺が深く刻まれ、険しい顔で小十郎は必死に記憶を辿ろうとしていた。
ここは主と共に訪れている真田の城・上田城・・・・。
(・・・・真田・・・・・)

『今晩アイツを手籠めにする』

唐突に思い出された政宗の言葉に小十郎の意識が急激に覚醒する。

「しまった・・・・!」

昨夜は政宗の部屋を寝ずに見張るつもりだった。
それがどうした事かすっかり寝入ってしまっていたのだ。
小十郎は己の不甲斐なさに奥歯をぎりりと音が出るくらい噛み締めた。
とにかく寝ている場合ではない。
掛けられていた夜着をはね除けると部屋の障子を勢いよく開けた。

「おはようございます。片倉様。」

幸村から命じられたのだろう。
廊下には平伏する小姓が小十郎に朝の挨拶をしてきた。
それに返事をする余裕もなく、その小姓の肩を掴む。

「悪いが政宗様の様子を見に行きたい。案内してくれ。」

ものすごい形相で凄んでくる小十郎に小姓は縮み上がる。

「は・・・はい・・・。」

そう返事をするのがやっとで、小姓は足を多少もつれさせながら政宗がいる部屋まで案内した。



小姓は案内を終えると逃げるようにその場から去っていった。

(俺の顔がそんなに怖かったか?)

そんな事をふと思ったが、今はそれどころではない。
小十郎は政宗がいるであろう部屋の前に正座をし、声を掛けた。

「政宗様。小十郎です。入らせていただいてよろしいでしょうか?」

・・・・・・・返事がない。
とても嫌な予感がする。

「入りますぞ。政宗様。」

障子に手を掛け、静かに開ける。
案の定、きれいなままの布団が一組視界に入ってきた。

(・・・・・・やはり・・・・)

小十郎は顔に落胆の色を浮かべ、溜息を吐く。
どこでどう育て方を間違ったのか、よりにもよって敵将に手を出すなど。
今更そんな事を考えてもしょうがないのだが、悔やまずにはいられない。
どんよりと重い空気を纏いながら小十郎は腰を上げた。
すると頭上から飄々とした声が聞こえる。

「あれー?右目の旦那じゃん。」
「猿飛。戻ってたのか。」

佐助は音もなく小十郎の目の前に降り立った。

「どうしたのさ。くらーい顔して。」
「・・・・・政宗様がどこにおられるか知らねぇか?」

沈痛な面持ちで小十郎は佐助に尋ねた。
その様子に佐助は内心ほんの少し同情する。

「察しの通り、真田の旦那の部屋にいると思うよ。」
「・・・・やはり・・・。」

もう何度目か分からない深い溜息を零す。

「んー、でも右目の旦那が思っているのとは少し違う感じになっていると思うよ。あの二人。」

佐助の意味深な言葉に小十郎は眉根を寄せる。

「・・・どういう事だ・・?」
「それは自分で確かめてね〜。」

そこまで言うと、佐助は闇を纏わせながら消えていった。
とにかく主が幸村に何をしたのか、聞き出さなくてはならない。
ぎり、と口中から軋む音が聞こえた。

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