第十五話
戦場で猛々しくも華麗に舞う政宗を目にした時から幸村の心は奪われていた。
――――いつからだろうか。
最初は政宗の普段の姿が知りたかった。
城中でどのように過ごし、何が好きで何が嫌いなのかなどほんの些細な事でも知りたかった。
しかし、同盟を組んでいるわけではないので幸村自身が出向くわけにはいかない。
そこで佐助に命じ、奥州に度々向かわせていたのだ。
佐助から聞かされる政宗の姿はどれも新鮮で、益々幸村の探求心は強くなっていく。
そのうち夜の姿にも興味が湧き、そちらも佐助に探るように命じた。
胸中ではどう思っているかは知らないが、佐助は顔色一つ変えず言われたとおりに任務を遂行してきた。
今回もそうだが閨に関しては紙に記録するよう命じており、目を通すと実に細かく記されていた。
その紙束も両指では数え切れないほどになった時、佐助からある報告を受けた。
『独眼竜の様子がおかしい』
物思いにふける時間が度々あり、閨の回数も激減したようだった。
『旦那・・・言いにくいけど・・・こりゃ恋煩いだと思うよ』
何を馬鹿な、と幸村は思った。
同時にとてつもない焦燥が押し寄せて来た。
これはこちらから何か行動を起こさねば政宗の心は手の届かない場所に行ってしまう。
いや、もしかしたらもう遅いかもしれない。
そう思いながらもどうすればいいか分からず、時間だけが過ぎていく。
だが、政宗の想い人は思いもよらない人物だったことが明かされる。
『良かったね旦那。独眼竜は旦那の事が好きみたいだよ。』
さも面白げ無く報告する佐助をよそに、幸村は天にも昇るような気持ちだった。
さらに、じきに政宗が小十郎だけを連れて上田にやってくることを聞いた。
ここを最大の好機と踏んだ幸村は今までの成果の集大成として、政宗を完全に自分のものにしてしまおうと考えた。
−そして現在に至る。
熱が未だに冷めないものを抜くと、政宗から籠もった声が聞こえた。
混ざり合った欲を佐助が用意した布で丁寧に拭き取る。
その感触に気付いたのか、政宗は隻眼をゆっくり開いた。
「・・・・・俺・・・とんじまったのか・・・。」
まだ覚醒しきれていない頭に手をあて、呻くように声を出す。
幸村はそっと頬に手を添え、ゆるゆると撫でた。
「お疲れでしょう。無理をさせてしまい、申し訳ござらぬ。ゆっくりお休みくだされ。」
撫でられる感触に政宗は目を細めた。
「アンタはやっぱり虎だったんだな・・。」
自嘲気味に薄く笑う政宗に幸村は覆い被さった。
「戦場でも床でも某を虎にさせるのは政宗殿・・・貴殿以外おり申さぬ。」
そう囁く幸村に柄にもなく心臓が跳ね上がったのは黙っておく事にした。
口に出したら最後、この虎に身も心も喰い尽くされそうだ。
政宗は若干顔を赤らめながら悪態を吐く。
「HA・・・!せいぜい俺を飽きさせないようにするんだな。」
その言葉が政宗の愛情の裏返しだと見抜いている幸村は蕩けそうな笑顔で答える。
「承知。この幸村、全身全霊で政宗殿を愛し抜きましょうぞ。」
初心そうな顔して言う事やる事ことごとく裏切ってくる幸村に政宗は悔しそうに舌打ちをした。
まったくおもしろくない。
夜着を引っ掴むと褥の真ん中にごろりと転がり、幸村に背を向ける。
「テメェのせいで体中が痛ぇ。」
そう呟いた政宗の背中を幸村は柔らかく抱き締める。
「申し訳ござらん。政宗殿が眠りにつくまでこうしておる故、ゆっくり休まれてくだされ。」
黒髪から覗く片耳に口付けを落としながらそう囁いた。
「・・・・OK.俺が『起きる』までそうしておけよ。」
少し照れくさそうに喋る政宗に幸村は微笑む。
「お任せ下され。」
背中に心地よい暖かみを感じながら政宗は目を閉じた。
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