第八話

政宗は幸村に案内された部屋の中で煙管をふかしていた。
何かを待ちかまえているように。
酒は結構な量を呑んでいたが、眠気が襲ってこない。
寧ろ戦前のような高揚感で目が冴え渡っていた。
春を迎えてもここ・上田の夜も奥州と同じようにまだ冷える。
政宗の目の前には火鉢が置かれ、時折ばちっと火種が小さく弾ける音が聞こえた。
その中に吸い終えた煙管の中身を慣れた手つきで一振りし、落とす。

「そろそろ頃合いか・・・。」

一人そう呟くと、障子をそっと開けた。
途端に冷たい夜風が剥き出しの足を撫でていく。
部屋から顔だけを出し、廊下の気配を窺う。
誰の気配もしない。
一応念のために自分の気配を最小限に抑え、廊下に出る。
城内は静まりかえっており、光は淡く輝く月光だけだった。
政宗は目的の場所を目指し、歩を進める。
もちろんそれは幸村の自室である。
場所は知らないが、城の造りなど大体同じだ。
勘を頼りに城内を探索する。

しばらく歩き回ると、それらしい部屋の前に辿り着いた。
小姓は控えておらず、なんとも無防備な状態である。
障子越しに中の気配を窺うと、微かな寝息が聞こえてきた。
そっと障子を開ける。
暗い部屋の中に月光が差し込み、こちらに背を向けている人物にあたる。
いつもは後ろで一つに括られている明るい髪が布団の上に散らばっていた。
間違いない。真田幸村本人である。

「BINGO・・・.」

政宗はそう呟き部屋に足を踏み入れた。
後ろ手で障子を静かに閉める。
足音を忍ばせながら、寝息を立てる幸村の側まで近付いた。
余程自分の城では安心なのか、部外者の政宗がすぐ近くにいるのに起きる様子はない。
もちろん今はその状態が好ましいのだが、悪意を持った者が来た場合どうするのだろうか。
などと政宗はいらぬ心配をしてしまう。
しかしそんな事は今どうでもいい。
ふとんに散らばった幸村の髪を掬い、口付けを落とす。

「竜が来てやったぜ、真田幸村ぁ・・・。」

規則正しく呼吸を繰り返す幸村の肩に手をのばそうとしたその時−。
政宗の視界がぐるりと回った。

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