第六話

幸村の家臣から案内された部屋は、先程の部屋より少し広めの座敷だった。
「風林火山」と書かれた掛け軸が掛かっており、その隣には「天覇絶槍」と書かれた掛け軸がある。

「hum・・・・.」

政宗はそれを一瞥しながら、用意された膳の前にどかっと座った。
小十郎も後に控える。
すると、どたどたと忙しない足音が廊下に響いてきたかと思うと、勢いよく障子が開かれる。

「お待たせいたした!政宗殿!片倉殿!」

小綺麗な袴に着替えた幸村が後ろ髪を揺らしながら入ってきた。
その姿に政宗はぼそっと呟く。

「So cute・・・.」

幸い、幸村の耳には届いていなかったようで満面の笑みで席につく。
しかし小十郎にはしっかり聞こえていたようで、言葉の意味は分からずとも背中に悪寒が走った。

「政宗殿のお口に合うか分かりませぬが、上田の食をぜひ味わってくだされ!」

膳を見ると、あまり見かけた事がない食事が並んでいる。

「どれも美味そうだなぁ、真田幸村。」

薄い唇にちろりと舌を這わせ、ゆっくりと幸村を見た。
政宗の動作の意味に気付くはずもなく、幸村は嬉しそうに答える。

「さあ!冷めぬうちにぜひ召し上がってくだされっ!」
「Thanks.じゃあ酒をついでもらおうか。」
「おおっ!これは失礼いたした!ささっ、一献どうぞ!」

傍らに用意していた酒瓶を手に取り、政宗の盃に注ぐ。
とくとく、と小気味の良い音をたて、仄かにいい香りが漂う。

「これも上田の酒でして、舌触りがよろしいかと。」

にこやかに説明する幸村を横目に、なみなみに注がれた酒を一気に煽った。

「悪くねぇ。アンタも飲むだろ?」
「これはかたじけない。」

今度は政宗が幸村の盃に酒を注ぐ。それを政宗同様一気に飲み干した。

「アンタ、いける口か?」

政宗の問いに幸村は少し恥ずかしそうに答えた。

「あまり強くはないのでござるが、酒は好きでござる。」

なるほど。本人の言う通り、強くはないらしい。
その証拠に盃一杯で頬がほんのり上気している。
政宗の頭の中で今宵の計画が着々と組まれていく。
意中の相手はこのままでいいだろう。じゃんじゃん飲ませればいずれ潰れそうだ。
小十郎にはいざというときのために用意していた眠り薬を飲ませれば問題ない。あとでバレたらどうなるかわからないがその時はその時だ。
厄介なのはあっちの従者だ。
おそらく主の警護には余念がないだろう。
もし対峙したとしても負ける気はしないが、事は円滑に進めたい。
佐助の動向を知るために政宗は探りを入れる。

「真田幸村。・・・お抱え忍はどうした?」

すごい勢いで膳をかっ喰っている幸村に政宗はそれとなく聞いてみた。
口中に余程詰め込んでいたのか、しばらく政宗をみながらもぐもぐと動かす。
ごきゅ、と大きな音が聞こえ、やっと幸村は答えた。

「佐助はお館様の命により上田を離れました。」
「What?!」

願ってもない答えに思わず大声が出る。

「?佐助に何か御用で?」
「・・・My luck has turned.いいや、何でもねぇ。」

酒を飲み干し、盃を置く。

「そう、でござるか。何か入用であればこの幸村におっしゃってくだされ。」

幸村の言葉に政宗は意味ありげに口角を上げる。

「ああ、そうさせてもらうぜ。Hey!小十郎!」

それまで静観していた小十郎だが、政宗にいきなり声を掛けられ肩を若干びくつかせる。

「な、なんでございましょう?」
「上田の酒は美味いぜぇ?お前も飲め。」

ずい、と目の前に酒瓶を差し出される。
政宗の顔を見ると至極上機嫌そうだが、小十郎の胸中は何やらざわめきだっていた。
正直あまり飲む気ではなかったが、まさか断るわけもいかず自分の盃を差し出す。

「・・・左様ですか。では頂戴いたします。」

注がれた酒を一口含む。

(−お?)

「いかがですかな?片倉殿。」

にこやかに幸村が聞いてくる。
確かに政宗が言う通り、美味だった。くせが無く、非常に飲みやすい。

「美味いぜ。真田。」
「おおっ!それはようござった!」

小十郎の素直な感想に、心底嬉しそうに幸村が笑う。
その屈託のない笑顔を見てほんの少し主の気持ちが分かったような気がした。
あくまでほんの少し、だが。

「もっと飲めよ小十郎!」

政宗が空いた盃にどんどん酒を注ぐ。
薦められるがまま、小十郎は酒を飲んだ。
その様子に隻眼を細める。

「楽しいpartyになりそうだな・・・。」

幸村をちらりと見ながら一人ほくそ笑んだ。

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