第五話

「政宗様。」
「何だ。」

すっかり冷めてしまった茶をすする主に小十郎はずいっと近付く。

「小十郎には政宗様の真意が図りかねます。一体ここに何があると言うのです。」

案外鈍い奴だな、と政宗は思った。
自分もあまり人の事は言えないが、小十郎ほどの軍師でも人の感情を完璧に読み取るのは難しいらしい。

「そうだろうなぁ。俺もさっき気付いちまったからなぁ。」

飲み干した湯飲みを静かに置く。
そして小十郎の方に向き直った。


「俺は真田幸村に惚れていたらしい。」


衝撃的な政宗の告白に、小十郎は目を大きく見開いた。


「・・・・・・なんと・・・・・。」


そこまで言い、言葉が続かず沈黙が続く。

戦国の世で男色は珍しくはないが、その相手が意外だった。

「これで俺の悩みは解決だ。つーことで、今晩アイツを手籠めにする。」
「ええええっ?!!」

主の飛躍しすぎた発想に思わず大声が出る。
いくらなんでもいきなりではないか。いや、そもそも相手は敵将だという事を忘れていないだろうか?!

「真田はあなた様の好敵手ではないのですかっ?!」
「ああ、そうだぜ。」
「ならば何故そのような事を・・・!」

馬鹿な考えを正そうと小十郎は凄い剣幕で政宗に詰め寄る。
しかし、当の本人は面倒臭そうに顔を背け、まったく聞き入れてもらえる状態ではない。
しかも、こんな事まで言い出した。


「今までみたいのじゃ満足できねぇ。俺は真田幸村ともっとsteadyな関係になりてぇんだ。」


−駄目だ、この人。早くなんとかしなければ。


焦る小十郎をよそに政宗はスパンと障子を開け、縁側に座る。

「これが俗に言う”恋”ってやつかぁ〜。」

感慨深げにうんうん、と頷き、一人笑っていた。
口で言って駄目なら体を張って止めるしかない。
小十郎は修学旅行中の教師さながら、政宗の部屋の前で寝ずの番をする事を心に決めた。
しかし、その決意は政宗の陰謀によって無残にも打ち砕かれる事を小十郎はまだ知らない。

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