第二話

政宗の自室に向かうと、部屋の前の縁側に座り頬杖をついている姿が見えた。
やはりどことなく遠くを見ており、物思いにふけっているようだった。
小十郎は膝を付き、声を掛ける。

「政宗様。如何なさいました?」
「・・・・・・・。」

返事がない。
どうやら気付いてないようなので、もう一度声を掛けた。

「政宗様!」
「うおっ!!」

やはり気付いていなかったらしく、大袈裟な声を上げる。

「なんだよ小十郎!いきなり話し掛けんな!」

少しキレ気味で騒ぐ政宗に小十郎は反論する。

「政宗様。お言葉ですが、そのように呆けているから小十郎の声にも気付かないのです。」
「う・・・・るせぇなぁ・・・。」
「まったくそのような姿をされておりますと、家臣に示しが付きませぬぞ。それとも・・・何か胸に思うことがおありで?」
「・・・・・・。」

政宗は何も答えず視線を小十郎から逸らした。

「政宗様?」

「なぁ・・・そんなに俺が心配か?」

いつもなら小十郎の小言を流す政宗だが、この時は違っていた。
その様子に一層違和感を感じる。

「当たり前です。・・・やはり何かおありのようですな。」
「ああ。聞いてくれるか?」
「この小十郎でよければなんなりと。」

探りを入れるつもりだったが、意外にも本題に行き着いたらしい。
それほどまでに主は悩んでいたのか、と小十郎は胸に思う。



「・・・・・・上田城に行くぞ。」

「・・・・・・・・・・・・・は?」



唐突過ぎる言葉に思わず聞き返してしまう。

「何度も言わせんな。上田城に行くんだよ。」

???えーっと・・・確か悩みを聞くはずではなかったか?
それがなぜ上田城??
誰だ?主が恋しているなんて言った輩は?!前出ろ、前だ!
混乱する小十郎をよそに、政宗は立ち上がり自室に向かおうとする。

「まままま政宗様っ?!お待ちを!!」
「Ah〜?何だよ。」

食い下がる小十郎に眉間に皺が寄る。

「上田城に行くとは、よもや攻め入るおつもりでっ?!」
「あぁ?」

見当違いの解釈をしている小十郎は余程焦っているようで、それがありありと顔に滲み出ていた。
その様子に政宗はおかしく思い、少し笑う。

「そいつはGood ideaだが・・・残念ながらそんなんじゃねぇよ。」
「では・・・何用で・・・?」

「上田といえば?」
「・・・・真田・・・ですか?」
「That's right.真田幸村に会いに行く。」

「小十郎には状況がよく把握できかねますが・・・。」

真田幸村−。
政宗の唯一無二の好敵手。

今まで幾度となく一騎打ちをしてきたが、未だ決着がついたことはない。
しかし当人同士はそれを楽しんでいるようで、お互いが倒れるまで戦い続ける事が定番になっていた。
戦況によっては同盟を組んでるわけでもないのに共闘したりする。
前々からそれはどうなのか、と思っていた小十郎だが今それは置いておこう。

−真田が主の悩みの種なのか?

どちらにしても予想外の事で、智将と呼ばれている小十郎でも政宗の意図が分からない。

「俺もよく分かんねぇだけど、こうなった原因はアイツにある。そりゃあ間違いない。」
「・・・・左様でございますか・・・。」

大いに意味不明で納得できかねる。
が、下手に反対をして、勝手に城を抜け出されては非常に困る。
ここは素直に聞き入れ、自分も上田城へ同行した方が得策だ、と小十郎は考えた。

「承知・・・致しました。」

意外にも素直に聞き入れた小十郎に政宗は口笛を吹いた。

「やけに物分かりがいいじゃねぇか、小十郎。」
「は。しかし、火急の政務は終わらせてから、ということで。」
「チッ。分かったよ。すぐに終わらせてやる。」

政宗は忌々しげに顔を歪ませると、ドスドスと音を立てながら自室に向かった。
残された小十郎は、複雑な面持ちでそれを見送った。

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