第八話

2人は道中、酒と肴をしこたま買い、旅籠に戻ってきた。
今、幸村は政宗の泊まる部屋にいる。
この旅籠で一番上等な部屋らしい。
といっても幸村の部屋より幾分広いだけのようだ。
ただ、窓が大きく、そこからは淡く光る三日月がよく見えた。
そして今まで三日月を見る度に思い出していた人物が今、目の前にいる。
ちら、と見ると政宗も三日月を見ていた。漆黒の髪が月光により青く光って見えた。

「命を取り合っている相手と酒を酌み交わすなんてな。」
「そうでござるな。何やら不思議な感じがいたす。」

お互いにくい、と酒を一気に飲み干す。

「アンタ、俺に何か用があるんだろ?」

ここで信玄から託された書状を思い出す。
政宗との偶然の再会に浮かれて、危うく大事な役目を忘れるところだった。
幸村は慌てて姿勢を正し、拳を両膝の前につけ、頭を下げた。

「ご無礼つかまつる。伊達殿の察しの通り、我が主君より貴殿への書状を預かり申した。故にこのような場で」
「あー、そんなまどろっこしい挨拶はいいから、武田のおっさんからの書状を渡しな。」

政宗は呆れたように髪をがしがしと掻き、手を幸村の前に出した。

「しょ、承知いたした。」

懐から書状を出し、政宗に手渡す。
政宗は受け取った書状を手早く開き、目を通した。


「おい、これはどういうこった。」


政宗は幸村に不服そうな声を上げ、書状を目の前に置く。
何かと思い見ると、書状には何も書かれていなかった。まったくの白紙である。

「・・・某には、皆目検討もつきませぬ・・・。」

幸村は信玄からこの書状のみを預かった。他には無かったはずだ。
政宗は顎に手を当て、何かを考えている。

「武田のおっさんが意味も無く、こんな事するはずねぇよな。何かあるはずだ。」

その言葉を聞き、幸村はハッとする。


『当人に会って、その苦しみの原因を見事解き明かしてみせよ!』


出立する前に言われた信玄の言葉を思い出した。



「伊達殿。」
「Ah?」

白紙の書状を蝋燭にかざしたりして調べている政宗に幸村は声を掛けた。

「聞いていただきたい事がありまする。」
「・・・何だよ。」

いつになく真剣な幸村の目に、政宗は書状を床に置いた。

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