第九話

「某・・・ここのところ・・・変なのです。」


いきなり自分の話を始めた幸村に、政宗は訝しげに眉をひそめる。

「その・・・伊達殿の事を考えると・・・この胸が苦しいのでござる。こう、ぎゅっと掴まれるようで・・・夜も眠れない時があるのです。」

政宗は耳を疑った。
これでは、まるで−。

「今日、伊達殿に偶然お会いして、その苦しみからは解放されたのですが・・・、代わりに何やら欲が出てきてしまい・・・。」
「戦場では見ることのできない表情や仕草を初めて拝見し、もっと見たい、もっと貴殿の事を知りたいと思うのでござる。」

ここで幸村は呼吸を整えるため下を向き、息を吐く。
そして、再度政宗に視線を向ける。
その瞳は燃えるように熱く、戦場で見るものとは違う熱を感じた。
政宗の心臓が跳ねる。


「某、伊達殿のことをお慕いしております。」


真っ直ぐ政宗を見据え、幸村は今悟った気持ちを伝えた。


「・・・・・。」



政宗は何も言わず、黙って幸村を見つめた。

2人の間に外の喧噪も聞こえないほど、静寂な時が流れる。
幸村は無言の政宗の意図が分からず、拳をぎゅっと握りしめた。

「・・・・ご迷惑・・・でござるな・・・。某の言葉は忘れてくだされ。」

幸村は目を伏せたままそう言った。
すると政宗の手が幸村のほうに差し出される。

「手ぇ貸せ。」
「・・・・え・・・?」

いきなり言われた言葉が理解できず、幸村はぱちぱちと瞬きをしている。
中々手を出さない事に焦れた政宗は、強引に幸村の手を掴み、自分の方に引っ張った。

「わっ・・・!」

強い力で引かれた為、前のめりになり、顔が床にぶつかりそうになるのを反対の手で慌てて支える。
すると、引っ張られたほうの手の平に暖かいものを感じた。

「・・・・分かるか?」

政宗の方を見上げると、己の手は政宗の胸に当てられていた。

「アンタに好きだ、と言われて・・俺の心臓はこんなに早く鳴っている。」

そう言われ、手の平に伝わる振動を探ると、確かに早く感じた。
自分のものと同じくらいではないだろうか。

「酔ってるからじゃねぇ。・・・いや、酒じゃないものに酔っているかもしれねぇ。」
「・・・・・?・・・では何に酔っておられるのか?」


「・・・アンタだよ、真田幸村。」


今度は政宗が幸村を真っ直ぐ見据え、思わぬ事を言った。
(今、伊達殿は・・・何と申した・・・?)
思考がうまく働かないのか、幸村は目も口も開いたまま、止まっている。
固まった幸村を見て、政宗は自分が言ったことをよく理解していないと判断し、もっとストレートな言葉を言った。


「俺もアンタが好きだ。」


幸村はその言葉に衝撃を受けた。

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