第二話

「では行って参ります。」

信玄の前で頭を下げる幸村の目の下には少々クマがあった。
結局あれから少ししか睡眠が取れなかったのだ。

「うむ。・・・して幸村よ。」

信玄がゆらりと立ち上がる。

「はっ。」
「この未熟者があぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!」
「ぬぅああああああああああー!!!」

−ドンガラガッシャーン!!!−

幸村は信玄から見事な右ストレートを浴び、襖を何枚も突き破って二部屋先に転がりながら行き着いた。

「ぐはっ・・・・。」

相当なダメージを受けたものの、ふらつきながら立ち上がる。
信玄はそのままドスドスと音を立て、幸村の目の前に来る。

「そのような寝不足で儂の命が務まると思うてかあぁぁぁぁぁー!!!!」
「ぐはぁぁぁぁ!!!!」

−ズガァァァァァァァァァン!!!−

今度は強烈なアッパーを喰らい、天井を突き抜け、落下した時に床を破って着地した。

「お・・・お館・・・さばぁ・・・。」

しばらくすると幸村は頭からはパラパラと木くずが落としながら床下から這い上がってきた。
そんな幸村を見下ろしながら信玄は声を張り上げながら言った。

「幸村よ!そのような情けない顔で発つつもりかぁ!」
「!」

咄嗟に目の下を隠す。

「大方気が高ぶって寝ておらんのじゃろう!しっかりせいっ!!!」
「も、申し訳ございません・・・。」

信玄に叱責され、幸村はまるで飼い主に怒られた飼い犬のようにしゅんと項垂れた。
落ち込む幸村に信玄は怒気を纏ってどすどすと近づき、拳を振り翳す。
幸村は来るべき衝撃にぎゅっと目を瞑った。


「・・・・仕様のない奴よの。おやつは一日三文までじゃぞ。よいな?」
「・・・お館様っ!」


ぱっと顔を上げると信玄は優しく微笑んでいた。
信玄の自分に対する気遣い(?)に幸村は感動し、拳を握りしめ震わせる。

「こ、心得ましたでございます!お館様ぁ!!」
「幸村ぁ!!」
「お館様ぁぁ!!」
「幸村ぁぁ!!」
「うぉやかたさまぁぁ!!」
「ゆぅきぶらぁぁぁぁぁ!!!!」
「うぉぉやぁかたさばぁぁぁぁ!!!!」

いつもの掛け合いを間で見ながら佐助は深い溜息をついた。




信玄とのいつもの儀式(掛け合い&殴り愛)を済ませ、幸村は愛馬に跨り奥州に向けて出発しようとしていた。
今回は信玄の使いということなので、いつもの具足ではなく、紅梅色の袴姿である。
もちろん愛用の二本の槍は置いていき、代わりに刀と脇差を腰に差していた。

「旦那。本当に俺様は付いて行かなくていいの?」

佐助が若干不服そうな顔をしながら幸村の見送りに来ていた。

「うむ。お前はお館様のお側にいてくれ。」
「それはいいんだけどさぁ。なーんか嫌ーな予感がするんだよねぇ。」

佐助は腕組みをしながら難しい顔をした。

「ま、今回は使者として奥州に行くんだから、向こうもそれ相応の対応をすると思うんだけど・・・。」
「佐助。俺の事は心配せずとも大丈夫だ。お館様の文を届ける事とこの胸の異変を無事に解決してみせるぞ!」
「・・・無自覚なのが心配なんだよ・・・。」
「ん?何か言ったか?」
「いーんや、何も。・・・ま、道中気を付けてね。」
「応。では佐助、お館様の事は頼んだぞ!」

幸村はそう言い残すと、奥州に向けて馬を走らせた。

「ホント何もなきゃいいけど・・・。」

佐助は小さくなっていく幸村の姿を不安気に見つめていた。

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