第一話

最近、ふと胸の辺りが苦しくなる時がある。
きゅっと締め付けられるような感覚で、心臓の鼓動が早くなる。
そうなるのは決まってあの人の事を考えている時だ。
なぜこうなるのかは考えても考えても分からない。
なので、佐助に聞いてみた。

「・・・・旦那、ごめん。俺様にもちょっと分からないよ。」
「そうか、佐助にも分からぬとは・・・。もしや、何かの病気であろうか?」
「えっ・・・?!いやー多分違うと思うよー!ま、そのうち治るよ!うん!」
「・・・そうか?」
「そうだよ!旦那は今まで病気なんてした事ないじゃん!だから大丈夫!」
「そうだな!佐助、すまぬな。つまらぬ事を聞いてしまって。」
「い、いやぁ〜いいって事よ。」


佐助の「大丈夫」という言葉を信じて、この苦しさは気のせいだと思った。
だが、そうではなかった。
心なしか日に日に苦しさが強くなってきている気がする。
これは本格的にまずいのではないか、と思った。
こんな状態で戦場には出られるはずがない。
ここは一旦お館様に報告をいたそう。

「ふむ・・・。そうか。」
「恐れながらお館様に助言をいただきたく。」

お館様は顎をさすりながら、斜め上を見つめ何かを考えておられた。
そしてゆっくりとこちらを見る。

「幸村よ。」
「はっ。」
「当人に会ってみてはどうか?」
「・・・・えっ?」
「さすればお主の胸の苦しみが取れるかもしれぬ。」
「し、しかし・・・。」
「丁度奥州に文を出そうとしておったのじゃが、お主に託すとしよう。」
「は・・・はい。承知いたしました。」

まさか奥州に出向くことになろうとは思っていなかった。
お館様は何か考えがおありなのだろう。

「明日出立なら日取りもよかろう。よいな?」
「はっ。」


幸村が部屋から出て行った後、佐助が信玄の前に降り立った。

「大将。いいんですか?」
「あやつもやっとじゃのぉ。」

嬉しそうに笑いながら腕組みをする信玄に佐助は溜息を漏らす。

「旦那が本格的に火ぃ付いちまったら、どうするんですか?」
「その時はその時よ。しかし、独眼竜に目をつけるとはな。あやつもやりよるのぉ。」

ガハハと豪快に笑う信玄に佐助は二度目の溜息をついた。



「・・・・。」

中々眠れず、取り敢えず目を閉じたままにしているとあの人の顔が浮かぶ。
独眼竜・伊達政宗−。
あの若さで奥州を平定し、天下を手に入れようとしている。
お館様も一目置かれているようで、文をやり取りする程だ。
そこまで考えて閉じていた瞼を開ける。
また胸が苦しい。
手を当てて、苦しさをやり過ごす。
まったくなんだというのだ。これは。
このような状態でお館様から預かった大事な文を届けられるのだろうか。
このままでは明日の出立に差し支える。
幸村はぎゅっと目を瞑り、無理矢理睡眠を取るようにした。

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