第三話

日が真上に差し掛かった頃、馬上で揺られていた幸村の腹がぐぅと鳴った。

「・・・・少し休むか。」

すん、と鼻を鳴らすと何処からか水の匂いがしてきた。
耳を澄ませば水音が聞こえてくる。
どうやら道を逸れて下ったところに沢があるようだ。
馬も休ませようと思い、斜面を下りていく。

幸村の読み通り、下った先には沢があった。
馬を水が飲める場所に繋ぎ、自分はその近くの石に腰を下ろす。
懐から佐助に持たされた握り飯の包みを出す。
包みを広げるとふわっといい香りが漂った。
形の良い握り飯が4つ並んでいる。
匂いからしてどれも違う具材が中に入っているようだ。

「いただきまつる。」

幸村はおかんな佐助に感謝しつつ、握り飯を頬張った。



腹も満たされ、十分な休憩が取れたのでそろそろ行こうかと腰を上げる。
馬も早く行きたそうにひひん、と嘶いていた。
幸村は馬に跨り手綱を取ると、一気に坂を駆け上り街道に出た。
あと二日程馬を走らせれば奥州に着くだろう。
途端に政宗の姿が頭の中に浮かぶ。

戦場でしか会った事のない彼が城中ではどんな姿で過ごしているか、などど考えてみる。
あの青い陣羽織からすると、寒色系が好きなのだろうか。しかし、彼ならばどんな色の着物でも着こなしそうな気がする。
着流し姿や袴姿の政宗を想像し、自然と顔が綻んだ。
そこでふと我に返る。
心臓がとくとくと早く鼓動を打っていた。

「俺は何を考えておるのか・・・。」

何だか気恥ずかしく、顔に熱が集中する。
幸村はそれを振り払うように馬の腹を蹴り、街道を一気に駆け抜けていった。



日も傾きはじめた頃、幸村は今日の目的地である宿場街で宿を探していた。
信玄からは十分過ぎる程の路銀をもらっていたが、なるべく使わずに役目を終えたい。そう思い、安い旅籠を探す。

「よし、ここにするか。」

幸村は様々な旅人で賑わう旅籠ののれんをくぐった。
すぐに主人らしき人物が出てくる。

「いらっしいませ、お侍様。」
「一部屋空いておるか?」
「ええ、丁度空いております。」
「ではよろしくお願いいたす。あと馬もおるのだが・・・。」
「裏に馬屋がございます。すぐ店の者に行かせますので・・。」
「あ、いや某が行く。」
「そ、そうですか。ではお部屋の用意をさせていただきます。戻りましたらご案内をさせていただきまする。」

幸村は主人に「頼む」と言い、馬を連れて旅籠の裏にある馬屋に向かった。

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