不老不死の秘薬



「ねぇ…教官?」
「ん?なんだ」
官舎裏での夜の逢瀬
今日も二人はそこで甘い時間を過ごしていた
「もしも…もしもですよ?不老不死の秘薬があったら飲みますか?」
キスが一段落して力が抜けている郁が堂上に凭れながらそう問いかけた
いきなりな話題に少し驚く
どうしてそんなこと聞くんだ
「あの…私、今とても幸せなんです」
「ああ」
「でもそれと同時にとても怖いんです」
先ほどまでの甘い空気をどこかになくしてしまうような会話
郁が不安にならないように片手でその体を支えながらもう片方の手で頭をゆっくりと撫でてやる
「私も教官も本を守るために命をかけています。もちろん私たちにとってそれは誇りです」
「それでも明日にはどちらかが死んでるかもしれない、隣にいないかもしれないって考えたら怖くなっちゃって」
と、弱々しく笑う
「だからこそ不老不死の秘薬があったら教官とずっといられるのになって思ったんです」
そう言うと郁はぴったりと堂上に寄り添った
郁の体温が伝わってくる
確かにこの暖かさがなくなってしまうのは怖い。だが…
「あのな、郁。確かに俺だってお前がいなくなるのは怖い。何たってお前をしごいて辞めさせようとしてたくらいだからな。でも俺はその薬は飲まない」
きっぱり言い切ってやると郁の顔がどうしてという風に歪む
あぁ駄々漏れだ、しかも今斜め上に何か考えてるだろうな
手に取るように考えが分かってしまうところが愛おしい
「ありきたりだと言われるかもしれんが、こうやって限りのある時間だからこそ相手を知ろうと思うし、離したくないと思うんだろ。」
それにずっと一緒にいすぎて郁に飽きられたらたまらんからなと笑ってやる
「そ、そんなことあり得ませんよ!!」
冗談を真に受け真っ赤な顔をしてかみついてくるとこが可愛くて仕方ない
「…それにな、不老不死の秘薬ってことは年取らないんだろ?こんなに可愛い郁をこれからずっと他人に見せ続けるなんて俺には耐えられないな」
そう言うと真っ赤な顔で睨まれた
だからそんな顔を誰かに見せたくないんだよ
そう心のなかで呟いて再びキスをした
郁の目に俺以外の誰かががうつらないように
これから先、年をとっていくのを一番近くで見るのも俺だけでいい
最期の瞬間まで俺のことだけを考えていてほしい
そう考えてしまう自分の独占欲に思わず笑った
やっぱり秘薬はいらない
俺はどんな郁だって愛していく自信があるから
そうひっそり決意した夜だった

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