ボクノート




その日寮の自室で堂上は手紙を書いていた。
手紙と言っても誰かに届けるものではない。
できればそれが開封されることは避けたい類いのものだ。
その名は『遺書』
戦闘職種である以上遺書と言うものは必須だ。
図書隊はそこら辺の職業よりよほど危険と言われている。
死と常に隣り合わせという現実を再確認させられる。
すでに書き上げた遺書が数枚。
家族や特殊部隊には割と簡単に書くことができた。
毎年書いていたからか、はたまた別れることをある程度覚悟出来ているからか。
だが、たった一通書こうにも書けない手紙があった。
自分の恋人である郁宛のものだ。
これを書きはじめてどれだけたったのか。
ペンを置きふと窓の外へ目をやると雨が降っていた。
あの大雨の日、自分は本当に死ぬかもしれないと思った。
流れる血、降り続く雨に体力を奪われ戦線離脱するはめになり、誰よりも大切な想い人である郁をたった一人で大阪へ向かわせる。
それがどれだけ辛かったか。
実際自分が今も生きていられるのは運だけではないと堂上は考えている。
別れる間際のぶつけるようなキス。
突然の告白予告。
あれが堂上をこの世に繋ぎ止めてくれたのではないかと思う。
あのときの郁は思っていたことを率直に告げた
ならば俺も率直に書けばいい
恥ずかしいことを書いても遺書を開封しないといけない状況にならなければいい
そう思いペンをはしらせた


後にその遺書を見直した堂上は一人笑う
今も昔も郁に対して思うことはなにも変わらないのだと
『郁、愛している
やることやってからこっちに来い
急ぐな、待ってるからな』

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