ひまわり郁ver



その日堂上班は館内業務だった。
堂上班は、といっても堂上と小牧はどうしても外せない会議があったので実質、手塚と郁だけだったが。
そして何故かその日に限って郁は色んな人からレファレンスを頼まれた。
目に見える範囲に手塚はおらず、いつも助けてくれる堂上も今日は会議で不在。
さらに業務部の人たちも周りに全くおらず
難しいレファレンスをすることになった。
だがそのジャンルは郁の得意とするものでなくどうしてもしどろもどろな対応になってしまう。
利用者も目に見えて苛立っているのがわかりますます頭が回らなくなってしまった。
郁が困りきっていると一人の業務部の女の人がやって来た。
郁とは違い、難しいレファレンスをこなしていく。
利用者の対応が終わったあとお礼を言おうとした郁に業務部の女は冷たい目を向けた。
「特殊部隊っていうのはすべての分野に精通しているものなんでしょ?いくら堂上二正があなたに館内業務を教えてもそれじゃあ教えがいがないわね。」
その通りかもしれない。自分の得意な分野はあまりに戦闘寄りで、館内業務は壊滅的
というか、事務作業全般はアウトだ。
未だに日報を書くのは遅く、堂上を待たせてしまう。
「すいませんでした。」
郁は頭を下げ足早にその場を立ち去った。

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「笠原ー。ご飯食べに行きましょ?」
いつの間にか午前の課業は終わり昼休みに入っていたらしい。柴崎が声をかけてきた。
あれから一体何の業務をしていたのだろうか。記憶がさっぱりない。だが頭のなかには先程の台詞だけがぐるぐると渦巻いている。
「笠原?何かあった?」
柴崎が郁の顔を覗きこむ。
思わず柴崎みたいに館内業務が完璧だったらと思ってしまった。そうしたらもっともっと教官に追い付けるのにと。
「な、何でもない!えっと、私行くとこあるから手塚と食堂行ってて!すぐ追い付くから。」
そう言って走り出す。そうしないと柴崎に嫉妬してしまいそうだったから。

残された柴崎は「駄々漏れよ、ばか。」と呟き手塚と食堂へ向かった。
今郁が必要としているのは自分じゃないから。必要としている人に郁の場所を教えてあげないといけないから。
でも、少しだけ腹立たしかったから直接会うまで黙っていようと一人笑う柴崎だった。

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その頃郁は外にある花壇の前に来ていた。
最近落ち込んだり辛いことがあったりするとこの花壇のひまわりを見に来る。
そうして自分の中のモヤモヤを取り除くのだ。
偶然知ったひまわりの花言葉。
確かあれは前回の館内業務の時に毬江ちゃんに教えてもらった。
あぁ、もっと教官にとって使える人間になりたい。
思わずため息が漏れる。
「笠原」
突然さっきまで考えていた人の声が聞こえ少し驚いた。
そうしていつもみたいな軽口。
そうやって簡単に私の気持ちを浮上させてくれる。
できる。そう思った。周りに何を言われても教官が認めてくれるなら、成長していると言ってくれるなら。
みるみる力が沸いてくる。
「励めよ」
とどめの頭ぽん。うわぁ、反則。
「そういえばお前なんで花壇にいたんだ?」
ふわふわとした気持ちに浸っていた私に教官は質問した。
「私、この花壇のひまわり好きなんです」
「お前みたいだしな」
うわ、毬江ちゃんと同じこと言う
ってことは色々とバレてる!?
と思ったけど教官は明るいとか太陽に向かってまっすぐに伸びていくとか、もうほんと反則ですよ!
だから教官には教えません。
どうしてひまわりが好きなのか、決意を新たに出来るのか。


ー笠原さんってひまわりみたいですよねー
ーえ?どこが?あ、見た目でしょ。私でかいもんねー
ー違いますよ。笠原さん、ひまわりの花言葉知ってますか?ー
ー花言葉?ー
ー花言葉は『貴方だけを見つめる』堂上さんの背中を追い続ける笠原さんにはぴったりですよね!ー
ーほんとぴったり。教えてくれてありがとうー


ー教官!いつか私は教官に追い付いて、越えて見せます!ー

食堂に向かって走っていく郁の顔にはひまわりみたいな笑みが浮かんでいた。

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