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「どう?いた?」
「こっちにはいない・・・」
「俺も見つけられませんでした」
「同じく・・・」
「まったく。どこにいったんでしょうか」
5人は揃って溜息をついた。5人の近くに咲希の姿はなく・・・もちろんそれが溜息の原因である。
咲希は迷子だった。はぐれてしまった。どうしてか、といえば・・・理由は数時間前に遡る。
ジェットコースターを巡り、バイキングに乗ったりショーを見たり。一通りのアトラクションを回り終わっていた。咲希の身長が低いため乗れない絶叫マシーンもありツナは心からほっとしていた。
・・・と、骸が気づいてしまったのだ。わざとツナが避けていたアトラクション、遊園地の定番――お化け屋敷に。
「一応、放送もかけてもらったんだけど・・・」
「咲希が百歩譲って聞いていたとして、迷子センターに自力で辿り着けるとは思えませんね」
「だよねえ・・・」
臆病なツナはできればお化け屋敷を避けたかったのだが、骸の言葉を聞いた途端目を輝かせた咲希を止めることなど出来はしない。ツナは意を決してお化け屋敷に足を踏み入れた。途端に目の前を過ぎる影。
ツナは悲鳴をあげそうになった。マフィアとなってもお化けは怖いのだ。仕方がない。けれどツナが悲鳴をあげる前に、咲希が悲鳴をあげて走り去ってしまったのだ。
意外なものである。ツナもそれ以外もしばらくの間呆然としてしまった。まさか咲希がお化けの類を怖がるなんて誰も予想していなかったのだろう。ハッと気づいたときにはすでに遅く・・・咲希の姿はなかった。
と言うわけだ。
「んんー。どうしよ〜!?」
「今のところ目立つところにいて咲希が見つけてくれるのを待つしかねーよなー・・・」
「だよねえ・・・。こんなとこで空を飛ぶわけにもいかないし・・・」
為す術なく、ツナは深く溜息をついた。
その頃、咲希はといえば・・・
「ツーナー?どーこー?」
迷子になった自覚もなく遊園地の中を彷徨っていた。今にも泣きそうなほど表情が曇っているわけではないけれど、やはりツナたちがいないことが不安なのか顔をしかめている。勝手にいなくなったツナたちに対して不満そうとも取れる顔つきだ。
だがしかし咲希にとってここは未知数の世界であり、どうすればいいのかはまったく分からない。とりあえず歩いては見るものの見知った顔は見つけられず、それでも歩き続けた。時には溜息をつき、だんだんと足は重くなってくるし太陽はますます眩しいし。そのせいで目が細められる。
どのくらい時間が経過したのか分からないけれど、さすがに疲れてしまって。咲希は近くにあったベンチに座った。周りを歩く子連れの夫婦が余計##NAME1##を寂しくさせる。
咲希には今自分は寂しいのだと思わなかったけれど。胸の中にぽっかりと穴が空いたような、理由もなく泣きたくなるような感覚に襲われていた。それは咲希にとって初めての感情で、今まで経験したことがないもので。どう処理していいかわからない。溢れてくる感情に心臓が締め付けられて落涙を促される。
――苦しい、痛い、痛い。
「っ、うえっ・・・」
知らない。こんな涙は知らない。こんな何も分からなくなるような激しい感情は知らない。
止められない。叫んでしまう。怖くて怖くて怖くて、そうでもしないと耐えられない。
「ふっ、――えっ」
それなのに。今まで心を支配していた恐怖は一気に消え去った。
なんでこの温度がこんなに安心できるのか。温度だけじゃなくて、仕草も匂いも、その全てが落ち着くの。
「ごめんね、咲希。大丈夫?」
「うぅっ。つなあ」
「ん。よしよし」
ぽんぽん、と優しく頭を叩く手が好き。躊躇なく抱きしめてくれる腕が好き。暖かな笑い顔が好き。
気づけば咲希はツナの腕の中でぐっすりと寝ていた。
「ふー。よかったあ。見つかって」
眠った咲希を抱きしめながらツナが安堵する。強張っていた肩から力が一気に抜けた。
ツナたちは咲希を見つけるために、遊園地の迷子センターの人に特徴を知らせ見つけたら連絡してもらうように頼んでいた。ただし人見知りなので見つけたら声をかけずすぐに自分達に教えて欲しい、とも。
その連絡で咲希の場所がわかり急いで駆けつけたというわけだ。
咲希が大泣きしていたのでツナは思わず抱きしめたのだが、そんなツナに縋るように服を掴んでいた咲希に少し驚いた。初めて会ったときとは違う。確実に咲希の感情は豊かになっている。
「10代目。咲希も寝ちまったことだし、帰りましょうか」
「うん、そうだね。また来ようね」
胸に一筋の不安を抱え、ツナは屋敷へと戻った。
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