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「ゆーえんち?」
「うん。大分咲希に寂しい思いさせちゃったからパーッと遊びに行こうと思って。嫌?」
「ゆーえんちって楽しいの?」
そこからか、ときょとんとした顔で自分に見つめる咲希にツナは苦笑した。
季節は春。始まりの季節のせいか、浮かれた空気が漂い、少し事件が増えた。ボンゴレの縄張りで羽目を外しすぎて銃の乱発が起こったりとついこの前まで大忙しだった。
人々も春の空気に慣れ始め、治安も元に戻ってきたのだが・・・咲希の機嫌の悪さは相変わらず直らない。
ツナが話しかければ一瞬だけ嬉しそうな顔をするのにすぐに顔をしかめて不機嫌そうな声を出すのだ。よっぽど無視されたのが堪えたらしい。
そんな咲希の機嫌を直そうと思いついたのが守護者で遊びに行くこと。子供と行くんだったら遊園地や動物園水族館あたりが妥当だろうと考えたが咲希はどれも分からない。
「遊園地はたくさんのアトラクションがあるんだ。ジェットコースターにメリーゴーランド、コーヒーカップ、お化け屋敷」
「・・・わかんないっ!」
「あ、ああ、ごめんごめん」
自分の知らない単語を並べられたことで、余計機嫌を悪くした咲希はぷいっ、とツナから顔を背けてしまう。
焦って謝るが咲希は依然として顔を背けている。
「じゃあ、遊園地行かない?みんなで・・・って言っても獄寺君と山本と俺だけだけど・・・」
ランボは連れて行くと面倒事が起きそうで、それは了平にも言えて。雲雀なんぞは論外。そうすれば自然とメンバーは決まってくる。
骸とクロームには聞いていないが、人と一線引いているあの2人が一緒に行ってくれるなんてツナには到底思えなかった。
「・・・ツナ行くの?」
「うん」
「恭弥は?」
「雲雀さんは・・・群れるの嫌いだから・・・」
「むう。じゃあ、骸とクロームも行こうよー。咲希、まだクロームとあんまり話してない!」
「うーん・・・」
咲希のお願いにどうしようかとツナは苦笑する。自分が頼んでも、クロームはともかく骸は耳も貸さないだろう。
だとするなら・・・。ツナは咲希を抱っこして笑った。
「じゃあ、一緒にお願いしに行こう?」
「うん!」
咲希がお願いしたならもしかして、そう思ったツナは咲希をつれて骸の部屋へと向かった。運のいいことに今日は本部のほうに泊まっている。
クロームと骸の部屋は隣り合っているのでクロームに声をかけ骸の部屋に来てもらい。ツナと咲希とクロームが骸の部屋に集まった。
満面の笑みを浮かべたツナに、これまた満面の笑みを浮かべた咲希に・・・骸は嫌な予感が鳴り響き顔が引き攣っている。クロームは何事だろうときょとんとしているけれど。
「あのねー!これから咲希と一緒にゆーえんち行こ?ゆーえんち行きたい!」
「・・・マジですか」
「えっと・・・」
「クロームと骸とツナと武と隼人で行くの!」
もはや決定事項のように嬉しそうに話している咲希に行かないとはっきり言えるほど骸は鬼ではなかった。骸も裏表のない純粋な少女を気に入ってはいるのだ。
もともと咲希と接点を持ちたかったクロームも・・・反対するはずがない。
そんな2人の様子を見てツナは満足そうに笑う。骸が咲希に反対できないことはなんとなく分かっていたし、クロームに至っては咲希と仲良くしたがっていた。
「じゃあ、行こうか。2人にも伝えてくるから。咲希は行く準備してて?」
「行く準備って?」
「んー・・・何にもしなくていいか。骸とクロームと一緒に玄関で待ってて?」
「はーい」
出て行くツナに咲希はバイバイと手を振る。ツナの姿が見えなくなると、一目散に骸のクロームのところに走っていって、その手を引っ張った。
「早くっ!ゆーえんち行こっ!」
「・・・行きますよ。行きますからそんなに引っ張らないでください」
「うん!骸とクロームはゆーえんちって行ったことあるの?咲希はないから、すっごい楽しみなの!」
興奮気味に話す咲希に骸とクロームは揃って苦笑した。
親のいない骸に、いてもいなくても同じ親だったクローム。2人にとって家族は一番縁のないものであり、一緒に出かけるなんて考えたことすらない。
それを咲希に伝えるのは難しく、クロームは行ったことないよ、と返す。
「じゃあ、咲希と同じだね!」
クロームの言葉に咲希は嬉しそうに笑った。子供らしい無邪気な笑みにつられて、クロームも微笑する。
咲希を真ん中にして手を繋ぎながら歩くその姿は、まるで家族のようだった。
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