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ひょいっ、と体を持ち上げられ咲希は体を強張らせた。咄嗟に炎を出さなかったのは男の気配がそう危険なものでないように感じたからだ。
自分より遥かに背の高いであろう男を見下ろしその様子をじっくり観察する。
金色の髪がきらきら太陽に反射してすごく綺麗だ。鳶色の瞳も優しい。その男の笑みに咲希は警戒を解き、そして笑いかけた。
「だーれ?」
「ん?俺はディーノってんだ。お前は?誰かの隠し子か?」
「咲希は咲希だよ!えーっと…」
自分のことを説明しようとするが、どう説明すればいいのか分からなくて首を傾げる。最もディーノはそんなことまったく気にしていないようだ。
見た限り咲希は純粋の子供のようでまさかこんな子供が暗殺者だなんて普通は考えないだろう。もちろん、咲希がこのボンゴレでしたことをディーノは知らない。
「咲希はー…ここに住んでるの!」
「ん、そうなのか。ところでツナはいるか?ツナって知ってるか?」
「うん!咲希ね、ツナ大好きなの!あーうー、でもツナ嫌い」
顔を輝かせ嬉しそうにツナが大好きといってすぐその言葉を取り消した。咲希は拗ねたように口を尖らせ眉を寄らせている。
子供のいないディーノにとってそんな反応は何年ぶりに見たものだった。可愛らしくて思わず笑ってしまう。きっとツナがかまってくれなくて拗ねているのだと容易に想像がついた。
ディーノが笑っていることが不思議なのか咲希は不思議そうにディーのの瞳を覗き込む。ふと、飴みたいだと思った。
「美味しい、のかなあ」
「は?」
「目って飴みたいでしょ?美味しいのかなって」
突然の疑問にディーノはぽかーんとした後大声で笑い出す。何となく自分が馬鹿にされたような気がして咲希は顔をしかめた。
それに気付いたディーノは謝るが、笑いを堪え切れずに何度も噴出しているので逆に咲希を怒らせるだけだった。
「悪ぃ、悪ぃ。けど、飴なあ。食べても上手くねーぞ」
「そうなの?食べたことあるの?」
「いや、ねえけど・・・」
「じゃあ、どうして分かるの?」
きょとんとした顔で尋ねてくる咲希に苦笑いを返しつつディーノは嫌な汗が背筋を伝わっていくのを感じた。無邪気な子供の質問、そう納得できればいいのに・・・
本能的に感じた恐怖なのかもしれない。ゾクゾクと体が震える。咲希の目は、至って本気だ。
子供にそんなことできるはずがない、そう思いながらも・・・ディーノは自分の目が抉られることを確信していた。このままじゃあ危ないと本能が警報を鳴らしていた。
「ちょっと、貴方。何でいるの」
「っ!恭・・・弥・・・」
「あー、恭弥ー」
咲希が暴れだしたのでディーノは咲希を地面に下ろしてやる。と、咲希は一目散に雲雀に向かって走り出しその足にしがみついた。
てっきり冷たくあしらうのだろうと思っていたのに、雲雀が嫌な顔一つせず咲希を抱き上げたものだからディーノの口が驚きで大きく開く。目も見開かれ、大分間抜けな顔だ。
そんなディーノを一瞥してすぐに視線を咲希にやった。きっと本人に自覚はないのだろうが咲希を見るその表情はいつもより柔らかく雰囲気も優しい。
10年の付き合い、一応師弟関係で結ばれているディーノだがいまだかつて雲雀のこんな表情など見たことはなく大いに困惑した。もしかしてこれは雲雀のそっくりさんなんじゃないかと思ったぐらいだ。
もちろん自分に対する態度からこれは雲雀本人だと分かってはいるのだが。
「勝手に部屋を出ないでくれる?余計な手間かけさせられた」
「だって誰も咲希のこと構ってくれないんだもん!暇だったの!!」
「仕事なんだよ」
「だから咲希も邪魔しないように一人で遊んでるの!恭弥は仕事すればいいでしょっ」
何だかまるで新婚さんのような会話だからディーノはさっきまでの慄然も忘れて微笑んだ。昔から他人を人としてみていなかったような雲雀にもこんな顔が出来るのかと嬉しく思うのだ。
そんなディーノの思いを図ってかディーノに向ける雲雀の顔は鬼のようだ。きっと視線だけでディーノを殺せたらいいのに、と思っているのだろう。
「咲希はディーノお兄ちゃんと遊んでる!」
「ん?いいぜ?仕事なんだろ?」
「ていうか貴方、何しに来たの。一ファミリーのボスの癖にずいぶん暇なんだね」
「ツナと仕事の話だっつーの。けど急ぎの用でもないしな」
「・・・」
雲雀はどうするか考えているようでディーノは少しだけ不思議に思った。雲雀なら面倒事に関わらず即座に咲希をディーノに預けると思ったからだ。
そこまで子供が好きだった覚えもなく、よっぽど咲希が気に入ってるんだなあなんて弟子の成長を嬉しく思っていたディーノだが、次の雲雀の言葉を聞いてその考えは即座に消し去られる。
「殺しちゃダメだよ?」
「うん!ツナと約束したー!」
「傷つけるのも、戦うのもだからね」
「うん!大丈夫だよ?ディーノお兄ちゃんの目が綺麗で飴みたいで美味しそうって思ったけど抉らなかったから!」
子供が言うには聊かグロテスクすぎる言葉を咲希は何の躊躇いもなく言ってしまった。ディーノ中にさっきの戦慄がよみがえる。
雲雀は顔をしかめはしたが、咲希に注意するどころか褒めたのだから驚いたのはディーノだ。
「ああ、でも――この人それなりに強いから少しぐらい殺っても平気だよ」
「ほんとー!?」
「お、おい。恭弥・・・?」
「子供に本気出すなんて大人気ないことしないでよね。じゃあ、殺されないようにがんばれば?」
咲希を下ろして雲雀は屋敷の中へと入っていく。その様子を呆然と見ていたディーノだが…
服が引っ張られるのを感じた。
つん、つん、と引っ張ってきているのは絶対に咲希で…意を決して下を見れば
「あーそーぼー?」
子供のような無邪気な笑みでそんなことを言うから、眩暈がした。
結局ディーノはツナが来るまでの長い時間咲希とサバイバルゲームをすることになった。
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