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「ひーまー」
言葉と間延びした声が空間に響き渡る。けれども誰も彼もが忙しそうに、忙しなく動いていて咲希の言葉に気付いてすらいないようだ。
自分の言葉が受け取ってもらえないことと、退屈さに・・・咲希はすっかり不機嫌になってしまった。
とはいえ、そのことに気付いているものはいないのだが・・・。何を言っても受け取ってもらえないことほど悲しいことはなく、咲希はしかめっ面をしながら部屋を出て行った。
それすら気付いてはもらえずに誰にも咎められることはなかったけど。
「んー・・・。そーだ!探検!」
屋敷に来て結構経つけれど、自分がこの屋敷のことをぜんぜん知らないことに気づいた咲希はさっきとは打って変わって嬉嬉とした表情で歩き始めた。
足取りは軽く、スキップをしているよう。広い廊下には誰も歩いていないので堂々と真ん中を歩く。なんだか、いい気分。
しばらく歩いているといいにおいが漂ってきて、お腹がぐううと鳴った。
咲希は誘われるがまま匂いのほうに歩いていく。ついた先は厨房だった。
咲希は大きな扉を小さい手で頑張って開けた。
「おおー」
ぐつぐつ、何かを煮込んでいる鍋。何かを焼いているフライパンからは炎が上がっている。かと思えば細かい細工を凝らしている人もいる。
「こーら。勝手に入っちゃダメだぞ?」
「うっわあ!」
「ん?お腹空いたのか?」
突然持ち上げられてばたばたと暴れてしまえば埃がたつ、と怒られた咲希。
顔をあげれば白い帽子を被った白い服を着た男の人だった。それはつい最近骸に教えてもらった"コック"という人によく似ていて。
「こっくさん?」
「うん。そうだよ。10代目がつれてきた・・・咲希ちゃんだったっけ?」
「うん。咲希だよ?ここからいい匂いがしたの!」
「そうか。お腹空いちゃったのかな?ちょっと待ってろよ」
そう言われ、厨房の外に出させる。そんなに待つことなく扉が開いてさっきのコックが外に出てきた。
「ほら、これあげるよ」
「えーと・・・くっきー?」
「そう。作りすぎちゃってな。もうここには入ってきちゃダメだぞ?ここはコックしか入れない聖域なんだから」
「せーいき??」
「コックさんしか入れないってことだ。咲希ちゃんは何してたんだ?」
「探検!」
咲希の答えにそうかそうか、と笑ってコックはまた厨房に戻っていった。
クッキーをもらってすっかりご機嫌になった咲希はにこにこ笑いながら廊下を歩いていた。
歩いていくうちにいつの間にか玄関まで来てしまったらしく、構ってもらえない不満とお菓子をもらった機嫌の良さから咲希は外に出てしまった。
「うっわ〜」
最近はツナたちの仕事が忙しくてもまともに外に出ていなかった。一人で外に出すと何をしでかすか分からず一人では外に出て行けないときつく言われている。
庭に出るまではいいだろう。そう思っていたが久しぶりの外に出るとツナとの約束だってすっかり頭から消えてしまった。
「ぽかぽか〜」
そこは驚くほどの晴天で。太陽は惜しみなく光を注いでくれているし、時々吹く風が心地いい。
家の中とは違う自然の青色に白色に気持ちが弾む。庭には図鑑でしか見たことの無かった花や草が堂々と咲いていた。
「うっわー。綺麗〜」
本で見たのとはぜんぜん違う。本で見たときは可愛いと思ったその花は実際に見るととてつもなく綺麗だった。
前まではなんとも思わなかったのに。何より図鑑に載っているものとはまったく似てもつかないと思った。
色も形も、作り物とは違う。本物の美しさ。不思議と沸きおこる気持ちの名前を知らない咲希だけれどその気持ちは心地よかった。
「ん?知らない子がいんな〜」
「ふ、え?」
きらきら太陽の光を反射して輝くその髪の色は金色だった。
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