真実を知ることを恐れる臆病者


「はあ……、はあ…」




荒い息が聞こえる。それに合わせて俺の胸が上下する。黒光りする銃は俺の心臓に向けられている。

リボーンは俺を見下ろしている。弱すぎて話しにならない、といわれているよう、息が苦しくなる。


もっと…もっと強くないと。強くならないと。弱いままじゃいけない。もっともっともっと

強く、なりたい。強く強く強く!!




「俺は、聞いたよなぁ」

「はあ、っ…え?」

「何のために強くなりてぇんだ、ってよ」




ゴリゴリと胸…心臓上に押し付けられる銃に血の気が引いていく。今寒いのは汗が冷えたせいじゃない、絶対に。

こんな殺気にさえ蹴落とされる。だから、弱くて弱くて弱い弱い弱い弱い




「仲間を悪魔から守るためだと、そう言ったな」

「言、った…」

「だったら――」




――っ!!


いきなり至近距離にある顔に呼吸が止まる。何をされるか予想つかなくて、体は情けなく震えている。

怒ってる。バカな俺にも、今この瞬間リボーンが怒っていることはわかった。何に対してなのかは分からないけれど、向けられる絶対零度の視線が痛い。

襟を掴まれているせいで喉が絞まる。息が出来ない。ひゅう、と掠れた吐息がその場に広がった。




「だったら何でそんな目してやがる」




――そんな、目…?

どんな目をしているのだろう。疑問に思ったのは一瞬だけで、すぐに納得がいった。

どんな目?愚問だったな。俺の目にあるのは憎しみだけ。恨みだけ。

いつか、あいつを、咲希を、燃え盛る地獄の業火で焼いてやりたいという希望だけなのに。




「俺はお前に復讐させるためにこんなことしてんじゃねえ。いい加減分かりやがれ」

「…っ、るさい」




煩い煩い煩い

ノイズが頭で暴れる。




「うるさい!!」




何が分かる!お前に何が!!

頭に血が上ってまともな思考回路じゃいられない。噛み付くように怒鳴っても鼻で笑われるだけ。俺如きが怒っても怖くもなんともないと言いたいらしい。

悔しくて悔しくて。苦しくて苦しくて。気づけば握っていた手から血が流れ出ていた。体はさっきとは違う意味で震えている。

――こんなに怒っても、俺の炎は小さいままだ。




「復讐なんて無意味だぞ。俺がお前の家庭教師をしてやろうと思ったのはお前が強かったからだ」

「っは?」

「昔からお前は自分の大切なものを守ろうとしていた。だからそれが出来る強さを与えてやろうと思ってたんだ。10代目としての強さを、だ」

「何言って、んだよ…。だって、俺は…」

「お前はしらねぇだろうが、ジョットとお前のどちらをボンゴレ10代目にするかの会議のとき9代目はいつもお前を推していた」




え?

思わぬ言葉に怒りは消え心が静まり返った。余りの馬鹿馬鹿しさに笑えない。だってありえないだろう。

ジョットは天才だった。エクソシストの中でその力はずば抜けて高かった。比べて弟の俺はエクソシストとしての能力が辛うじてあるくらいで、下級悪魔を満身創痍で倒せるかもしれない、ぐらい弱い。

どちらが10代目として相応しいか、は火を見るより明らかだ。




「9代目はお前の目に仲間を守る思いの強さを見たんだ」

「…」

「昔っからお前は仲間を守るために弱いくせに無茶してただろ。京子を守ったりハルを守ったり」

「…」

「ジョットにはないものだぞ」




そんなわけがない、と否定したかったのに言葉が出て来ない。

ジョットには仲間がたくさんいた。ジョットは彼らが嫌いではなかった。けれど一線引いて、それ以上は踏み込ませないようにしていたのも知っていた。

天才であるが故に。計り知れないその才能は人を恐怖させ、畏怖させた。だからジョットはいつも少し浮いていた。どこが、とかじゃなくて見ていてなんとなくそう思うのだ。




「けど…俺にはもう、これしかないんだ…」




復讐が無駄だってことは分かってる。ジョットが返ってくるわけでもない、誰かが喜ぶわけでもない。自己満足にさえなっていない。

それでもこうする意外ないわけで、こうする意外この怒りを収める方法を知らないし、これをしない限り生きていても一生恨み続けることになってしまうから。




「…お前、マジで咲希がジョットをやったと思ってんのか。おめでてーな」

「…は?」

「何にも知らねえんだな。誰かを恨む前に何が真実なのか見極めろ」

「真…実…?」




言ってる意味が分からない。

ようやく開放された喉に酸素の量が多すぎて思わず咽てしまった。そんな俺には目もくれずリボーンはいってしまう。

残された俺はその場に蹲っていた。いつもは自分の弱さとか不甲斐なさに対して塞ぎこんでいるだけだけれど…




「真実って…」




今日はもう頭がぐちゃぐちゃだった。何も考えたくないくらい。ただただ咲希に対する復讐心で心をいっぱいにしたい。

だって、そうじゃなきゃ、俺は、俺のしてきたことは…




「考えたくもないよ」




思わず自嘲する。

結局俺は弱いままだ。弱くて浅はかで卑劣な人間。そうであるしかないのだ。






[前へ][次へ]

[main][top]





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -