滑稽な道化師は涙目で笑い眠る
悪魔は人の思っている“悪”とは違う存在だ。人間よりも自然に近く理性よりも本能が強い。
人間を食すやつもいる。本能の一つ、食を満たすために。人間を犯すやつもいる。性欲を満たすために。淫魔とかがいい例だ。
悪魔には人や動物と違って仲間意識や家族意識がなく、感情が乏しい。もちろんみんながみんなそうではないけれど。
人に近い悪魔もいる。“彼”は人に近いという言い方を酷く嫌う、プライドの高い人。他のものと馴れ合わない孤高の存在。
彼は、薔薇のよく似合う悪魔だった。気高く美しく独りでも鮮やかに咲き誇り、独りで在る故に美しい。冷たいように見えて優しいところもある。
彼は植物系の、薔薇の悪魔だったから私がバラであっても変ではないと思っていた。ところが彼はそれを否定した。
“確かに同じ植物系になる可能性はある。けど花や草の種類は一人一人違うんだ。ただ単に君が自分を受け入れられないだけ。本当の姿が分からないから彼と同じ姿に安心してる”
悪魔は子育てなんてしない。だから独りで生きるしかない子供は最初は親の力を使う。
動物系のほうが分かりやすい。うさぎ系だったら最初はうさぎとして生き、様々な経験を経て自己形成が出来たとき初めて“自分”ができる。うさぎかもしれないし、他のものに変化するかもしれない。
極稀に生まれつき“自己”を持つものがいる。彼・・・アラウディがそうだった。
つまり、まだ私は子供で自己形成が出来ていない。親の真似をすることしかできないからバラなんだ・・・。
「疲、れた・・・」
悪魔になってからもう数十年経っているのに、私の外見は変わらない。体の衰えはなくそれでいて力の強さは増していた。
アラウディに悪魔について教えてもらった数年間はとにかく必死だったせいか、めまぐるしく移り変わる季節についていけず記憶は曖昧だ。
そして、ジョットといた日々。きらきら輝いている。それなのにそれは悲しいことも思い出させるから心の奥に沈んでる。そう簡単に思い出せないように、幾重もの鍵をかけて。
それから――今、生きてる。実感のないまま過ぎ去っていく日々に流される。体ではなく精神が疲労感に襲われている。
「・・・春、だよ」
いもしないジョットに向かって呟いた。
舞い落ちる桜の花びらが、春の暖かさが、桜の呼吸が私を眠りに誘う。断る理由なんてなく、私は静かに目を閉じた。
「おや、あれは・・・」
「骸様?」
楽しげに口角を上げる少年と、不思議そうに少年を見る少女。そんなことも知らずに眠る少女。
さて、どうなる?
[前へ][次へ][main][top]