それが裏切りか否かは神のみぞ知る


さああああ


風が騒ぐ。木々や花々が揺れ踊る。まるで、彼女の来訪を歓迎するかのように。


彼女は自然が好きで、自然も彼女が好きだ。

彼女が望むのならきっと、冬でも向日葵は咲くし、紅葉は一年中だって続くんだろう。

人間だったことから草花が好きだった彼女。

人間であっても植物と心を通じ合わせることが出来ていたから悪魔になった今では草花は友達のようなものらしい。




「恭弥君」




彼女の声を形容するに相応しい言葉は"甘い"だ。彼女の声は甘い。

彼女が来るときはいつも甘ったるいバラの香りがついてくる。それはあの男の匂いであって、ムカムカして気持ち悪い。

彼女はバラなんて柄じゃないだろうに。




「ねぇ」




一瞬にして現れた彼女は非難がましそうな目をこちらに向けている。

僕は答えることなく近くの木に寄りかかった。




「・・・。どうだった」

「弱そう」

「そんなの知ってる!」

「すごく危ない目だね。そのうち悪魔に絆されそう」

「そんなこと「させないために、君がいる?」・・・そう」

「ふぅん。まあ、赤ん坊がついたんだ。多少は強くなれるんじゃない」

「・・・そのリボーンって、強いの?」




そんな質問に、思わずため息が出た。

人間のことを知ろうとしない咲希には分からない・・・か。過去のトラウマの成果、憎しみを思い出すからか・・・。

赤ん坊はエクソシストの中でも飛びぬけている。僕でさえ、いまだ彼には敵わない。




「強いよ」

「ふぅん。恭弥君が即答するなら、そうなんだろうね」

「殺されないといいね」




僕の言葉にうんともすんとも返さないどころか、咲希は無表情でどこかを見ているだけだった。目は僕に向いているけれど僕を見ているわけじゃないだろう、多分。

なんとなく予想はついたことだけれど、それでも思わずにはいられない。やっぱり、この子は死にたがっている。と。

ジョットの願いを全うすることだけが彼女の生きる意味で、本当は今すぐにでも消えたいんだろう、こんな世界からは。




「じゃあ、ね」

「・・・咲希」




消えようとする咲希に声をかけると、不思議そうな顔を向けられた。

そこで思いっきり顔をしかめながら言う。




「いい加減、バラの香り、嫌なんだけど」




答えることもせず、バラの香りだけを残して咲希は消えた。

体の中から香りを出したくて大きく息を吐く。

――スーツに移ったかな・・・






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