ダリア


突然のチャイム音に驚いた恭弥だが、咲希ほどではない。

ビクリと肩を震わせ、顔が青くなっていく。

どうしたの? と聞くまもなく



「恭弥、ここにいて。絶対出てきちゃダメ。」



近くの押入れに押し込まれた。

ガチャンガチャンと食器を片す音がして、咲希は部屋を出ていった。

・・・しばらくすると、誰かと一緒にまた部屋に戻ってきた。



「今日はどうしたの?急に。」

「あぁ。今、口座に振り込むと危ねぇってことで直接渡しにきた。」

「・・・そっちのほうが危ないと思うけど。」

「俺だってそう思ったけど、10代目が・・・・」



そこで男は言葉を切った。

まるで咲希を気遣うかのように。



「・・・・死ねばいいって思ってるんでしょ。」

「・・・・悪い。」

「別に、隼人が謝ることじゃない・・・。分かってるから・・」



隼人

男の名前らしい。

そんなことよりも咲希の声が・・かすかに震えていることのほうが気にかかる。



「わざわざ、ありがとう。」

「あぁ。」

「用はそれだけ?」

「あぁ・・・・・お前、一人暮らしか?

「そう・・だけど?当たり前でしょ?」

「・・・・ならいい。」



男が部屋を出て行く。

咲希は、見送りはしなかった。

ただ・・・



「っ・・・・」



涙を堪えているようだった。

目に入る光がまぶしく感じる。



「ごめんね、急に押し込んで。」

「・・・・」

「すぐ、止まるから・・・涙なんて・・すぐ。」



つぅ と頬を零れ落ちる。

辛さ・苦しさ・寂しさ・・・全てを落とすかのように。



「あれ・・・誰。振り込むって・・」

「・・・・聞かないでっ、」



その声には、切なる想いがこめられていた。

今までのように、苦笑しながらだったりじゃない・・・

本当に苦しくて 哀しくて 忘れたいと・・・



「なんでっ・・・なんでっ、」

「お母さん。」

「ごめんっ、泣かせてっ・・・今だけは・・・」



何もいえなかった。

"お父さん" だったら慰めるんだろうか。

"オトナ"   だったら咲希を助けられるのだろうか

"子供"だから ダメなんだろうか



「――そんなことないよ、」

「え?」

「恭弥がいてくれて嬉しい。恭弥がいてくれて、よかった。」



心のうちを見透かしたかのように、咲希は言う。

ぎゅっと抱きしめられた・・・



「慰めも同情も要らない。ただ、いてくれることが・・思っていてくれることが嬉しいの。」

「なんでッ・・・」

「恭弥?」

「じゃぁ、なんでお母さんはッ・・泣くの、ヒック・・・なんで・・哀しそうに、笑うのっ・・」



止まらなかった。

溢れてくる涙も言葉も。

咲希の涙は止まり、今度は恭弥が泣き出してしまう。



「恭弥・・・・・」

「僕じゃ、何も出来ない!!お母さんの涙だってっ・・止められないんだっ!」



ただただ、泣く恭弥を抱きしめることしか出来ない。

咲希だって同じだ。

何も出来ない。



「うん・・・」

「ひっく・・・っ・・」

「ありがとう。」

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