Confession : scene.1

2



 手を額にかざして、空を仰いだ。

 先ほどまで空に浮かんでいた雲は風に乗って去って行き、今は雲ひとつない、抜けるような青空が広がっていた。
 日差しは燦々と降り注ぎ、暖かく大地を照らしている。

 新緑の季節。
 大きく息を吸い込めば、まだ若い緑の香りが鼻先をくすぐる。


 セリスは見晴らしがよく、寝心地が良さそうな場所を探した。
 案の定、ロックは小高い丘に1本だけ立った大きな木の下の木陰に横たわり、目を閉じて眠っていた。
 なんて平和な光景だろう。
 木漏れ日に照らされて、彼の周りだけは本当に穏やかな空間で満たされていた。



「―――…ロック、」



 呼び掛けてみる。けれど返事はない。
 セリスはロックの傍にしゃがみこんだ。
 そして、もう一度呼び掛ける。



「ロックってば……」



 小さな声で囁くその声には、目の前で眠る彼を起こしてやろうという気配が全くといっていいほど感じられない。
 セリスはロックの寝顔を見つめ、ふっと口元を緩ませた。


(相変わらず…かわいい寝顔…)


 セリスの楽しみの一つは、彼の寝顔を見ることだった。
 普段は見せることのない、彼の無防備なその顔。
 ロックは歳の割には童顔なのだが、その寝顔はそれに輪を掛けて、子供のように屈託がない。
 本当に、7つも年上なのかと疑いたくなるほどだ。
 呼び掛けに何の反応も示さない事を認めたセリスは、穏やかな優しさをその瞳に湛えて、彼に告げた。



「―――…ロック…好き…。」









 セリスが彼の眠る間に実行する事。それは、



 告白。



 今や恋人同士である二人だったが、ロックは臆する事なく素直な想いを伝えてくるのに対し、セリスはなかなか面と向かって想いを口には出せないでいた。

、ロックに『好きだ』と言われた時も、セリスはただ頷き目に涙を浮かべながら、彼の胸に顔を埋めていただけで。
 ロックを前にして自分の想いを口にした事はなかった。

 これまでの人生で、男の人に想いを伝えるという行為など皆無だったセリスにとって愛の言葉を、しかも好きな人の前で紡ぐ事など、考えただけでも気絶しそうだ。




 だから…。

 セリスは彼が寝ている時に、彼が聞いていない時に、普段口に出せない素直な想いを彼に告白する。
 彼が聞いていない時に言っても意味がないのだという事はわかっている。
 けれど、それでもセリスは満足だった。



 今は言えなくてもいつか

 彼の目を見て伝えられるようになるまで…





 それまでは―――…。




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