賭の代償

7



「ふざけんなッ!!!」



「――――――ッ!!」



 
 瞬間、衝撃が走った。




 身体に。
 そして心に。




 激昂したロックに壁に両肩を叩きつけられるように押し付けられた衝撃。
 そしてその数秒後に目に入った彼の表情。
 それを見て、胸を貫かれるような衝撃を受けた。
 背に受けた刹那の痛みに目を瞑り、再び開けた視界の先には、怒りを露にして怒鳴っていたその声とは裏腹に





 ――――苦しげに瞳を揺らす悲痛の表情があった。





 息が詰まる。
 背中に受けた衝撃に。
 そして胸に受けた衝撃に。
 言葉の続きも喉の奥に引っ込んでしまった。



(…なんで…そんな苦しそうな顔……)



 自分に向けられた、ロックの苦痛にも似た表情。
 その真意が判らず、セリスはただただ見つめられるままに困惑するしかなかった。




 揺れる瞳はおもむろにセリスから視線を逸らして俯き、眉を潜め、感情を押し殺すようにそのまま目を伏せた。
 両肩を押さえる彼の指は肩に痛いくらいに食い込んで。
 僅かに震える指先が、まだ何も理解出来ていないセリスの心をも震わす。


 ロックは、ゆっくりと呟いた。
 心に燻る思いを吐き出すように、掠れる声で。



「お前……、俺があの時どんな気持ちであの場にいたかわかってんのか……?」

「え……」

「あの時俺が……!どんな気持ちであの賭けを見てたかわかってんのかよ……!」



 先程までの剣幕が嘘のように鎮火し、後に紡がれた言葉、それは…



「あんなくだらない賭で…負けたらお前があいつの女になるなんて…
そんな事許せる訳ないだろ…!」



 …セリスの身を案じた切ない程の訴えだった。
 切実なその声色に、胸がぎゅっと締め付けられる。

 ロックは再び顔を上げた。

 合わさった視線。

 揺れた瞳で、心の奥底まで覗き込んでくるような真っすぐな彼の眼差しにセリスは手首を捕えられていた時よりも強く、心を捕えられてしまう。




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