賭の代償

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 …私を…心配…?




 ロックが怒るのは、自分を責めるのは、自分の勝手な判断と行動に対してのものなのかと思っていたのに、彼の中で燻っていた怒りはセリスが全く予想もしないものだった。



 彼はセリス自身の身を賭の対象にした事を怒っている。



 しかもこの先絶対必要だという飛空艇よりも、セリスがセッツァーのものになるという事の方が許せないのだと。
 彼はそう言ったのだ。




 …なにを…言ってるの…?




 そんな事を言っている場合ではないはずだ。
 今は帝国に行くために何よりも飛空艇が必要で。
 セリスがセッツァーのものになろうとどうだろうと、今はそんな事にこだわっている暇はない。


 それよりも、賭をした時だって自分程度の身が飛空艇との天秤にかけて釣り合うのかどうかも疑問に感じる程だった。
 初めから勝ちが決まった賭だったので、自分の身を捧げるくらいで飛空艇が手に入るならいくらでも……とはさすがに思わなかったけれども。



「そんなもんでお前を手放すくらいなら…飛空艇なんてないほうがマシだ…!」



 セリスを対価にして飛空艇を手に入れるつもりなどないと、ハッキリと吐き捨てるようにそう言い放つロック。
 それを聞いたセリスは、こんな状況にも関わらず顔が熱くなるのを感じ、胸が切なく打ち震えるのを止められなかった。


 その音が彼に聞こえてしまうんじゃないかと思う程、戸惑う心とは裏腹に、速度を増して煩いくらいに高鳴る鼓動。



「そんな…だって…ないと帝国に…」
「……だから……。そーゆー事言ってるんじゃねぇって…」



 呆れたように呟いて、ロックはおもむろに身を寄せた。
 そして肩に置いた手はそのままに、セリスの肩に顔を埋めるようにして頭を乗せた。
 自分では擡げられない重みを、彼女の肩に預けるように。


 二人の顔の距離は極々僅かしか離れていない。
 そのまま溜息をもらすロックの微かな息が首筋を掠め、セリスは思わずびくりと反応して硬直し、頬は更に赤みを増して色づいていく。
 そんなセリスの様子に、顔を埋めているロックは気づく事なく、溜息混じりに言葉を零した。



「なぁ、お前さ……頼むからもっと自分を大事にしろよ……。簡単に自分の事投げ出すような真似すんな」



 そして更にくぐもった声で愚痴るように続けた。



「………そんでもうちょっと自分の魅力に気づけ馬鹿」

「――――…!」



 突然そんな風に言われ、セリスは驚いてロックを見た。
 けれどロックはセリスの肩口に顔を埋めたままで、セリスには彼のアッシュブラウンの髪しか見えずその表情を窺い知ることができない。




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