賭の代償

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 けれど。
 ロックが怒る理由は判っている。




 ロックの制止も聞かず賭を実行した事。




 飛空艇を手に入れられるかどうかの大事な場面で、何の相談もなしにセリスの独断であんな賭を持ち出した事を彼は怒っているのだ。

 とは言うものの、セリス自身、始めから勝算のない賭などするつもりは毛頭ない。
確実に勝てるという確信があったからこそ賭を持ちかけたのだ。

 けれど、勝てると判っていたのはエドガー、マッシュ、そしてセリスの三人だけで。
 仲間内であの場で蚊帳の外だったのはロックだけだった。

 何も知らないロックにとって、例え二分の一の確率といえども、セリスの勝手な判断で行われた賭の勝敗によってこれからの自分の運命を自分の意識の外で左右されるのは許せない行為だったかもしれない。

 とはいえあの場では咄嗟の判断が必要だった。
 自分達に有利な、勝ちが確定している賭を咄嗟に思い付く事ができたからこそ、今飛空艇を手に入れ、ベクタへ向かう事が出来ている。





 戦でも何でもそうだ。
 判断を誤ればチャンスを失う。
 チャンスは一度。
 同じようなチャンスは二度とは巡ってこない。

 相談なしに賭をした事は悪いと思っている。
 けれど相談している余裕もなかったし、エドガーとマッシュの二人にはコインを使う事である程度予測してもらえた筈だった。

 確実に飛空艇を手に入れる為には、あの場ではあれが最も得策だったと思う。
 自分の判断が間違っていたとは微塵も思わない。






 そうよ。




 私は間違ってはいない。




 ロックの気持ちは判るけれど―――…







「仕方ないじゃない…。あの時はあれしか方法が…」
「仕方ない…?例え負けても仕方ない、しょうがないで済ませられるって言うのかよ!?」
「ち、違うわよ!」
「じゃあ何なんだよ!」
「だってあれは………初めから確実に勝てるって勝算があったからこそ……」
「そんな事聞いてるんじゃねぇ!」

「…………!!」



 神妙な面持ちであの時の勝手な判断の釈明をしようとしているのに、まるで取り合おうとしないロックにセリスも次第にカチンとくる。


 苛立つ気持ちのままに、捕えられていた手をどうにかして強引に振り解いた。



「どうして!?勝ちが決まってた賭だったんだからいいじゃない!何が悪いの?!
私があそこであの賭を思い付いたからこそ今飛空艇でベクタに向かえてるんじゃない!
確実に飛空艇を手に入れられると思ったから私は―――」




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