■■■■ 賭の代償
5
後に残された二人。
そして突如訪れる静寂。
背後にいるロックの気配は感じるものの、彼は全く動こうとはせず、部屋に帰ろうという様子もみせない。
何か居心地悪いものを感じセリスは逡巡したが、しばらくしてエドガーの後を追うように部屋を出ようと一歩足を踏み出した。
その時、
「セリス」
ずっと押し黙っていたロックがセリスを呼ぶ。
驚く程低い声で。
ロックらしからぬ声色に思わずセリスは振り返って彼を見た。
そこには…
これまで見たことのないような、凍り付くような彼の眼差しがあった。
セリスを射竦めるような、強く、鋭く、そして冷たい眼差し。
ロックはそんな視線をセリスに向けたまま、何も言わずゆっくりセリスの方へと近づいてくる。
彼を纏う空気は怖いくらいに冷たい。
セリスは彼のそのただならぬ様子に無意識に身を堅くし、真っ直ぐこちらへ向かってくるロックから逃れるように一歩ずつ後退さる。
けれど迷いもなく近づいてくるロックに追いつかてしまうのも時間の問題で。
そうしてあっという間に、セリスは壁際に追い詰められてしまったのだった。
* * *
ロックは怒りをその瞳に宿したままセリスを黙って見つめている。
セリスはその瞳の威圧感に、目を逸らす事もできない。
いつまでも続くかと思われた重い沈黙が、ロックの低い声によって破られた。
「一体どういうつもりなんだ」
「…え…?」
「なんであんな真似をした?」
「…あんな…?」
突然言われた事の意味がすぐには理解出来ず怪訝な表情をしていると、察しないセリスに苛立ったように掴んだ手首に更に力を込めて、ロックは声を荒げた。
「何であんなくだらない賭をしたのかって聞いてんだッ!」
「……………っ!」
容赦のない怒り。
それを目の当たりにして、セリスは身を竦ませた。