■■■■ 賭の代償
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「――――――!!?」
セリスは目を見開き、今自分自身に起きている事が理解できずにいた。
けれど頭で理解するよりも先に身体が拒絶の反応を示す。
パンッ!
渇いた音が辺りに響いた。
セッツァーの頬を張ったセリスは咄嗟に自分の口元を手の甲で拭い、真っ赤になってセッツァーを睨みつけた。
「なっ…!何なのよ!何するの!?」
今だに自分の身に起こった出来事に訳もわからずに戸惑い、頭の中がぐちゃぐちゃで言葉も思うように紡げない。
セッツァーは頬を張られても別段動じた様子を見せず、寧ろ薄く笑みを浮かべてセリスを見ている。
「気が強い所も俺好みだ。絶対お前を俺の女にしてやるぜ」
「な…何言ってるのよ!勝負は私が勝ったじゃない!」
「ああ。でも俺はお前が気に入ったんだ。勝負には負けたがこれは俺の意思だ。絶対お前を手に入れてやる」
臆する事なく宣言するなり、今度はセリスの耳元に顔を寄せ、
「何時でも俺んトコに来いよ、かわいがってやるぜ」
そう言葉を流し込だ後、そのままセッツァーは踵を返し、高笑いしながら操舵室へと向かっていった。
「そ、んな…人を物みたいに…」
人の気持ちを全く無視した傲慢な物言い…
もとい、愛の告白のような台詞と唇に残る微かな感触の意味を今更ながらに頭で理解し始め、セリスは力無くその場にへたり込んだ。
あまりの予期せぬ展開に呆然とし、セリスはへたり込んだまま暫く放心して動けなかった。
「…セリス、大丈夫か?」
そんなセリスに、エドガーが心配そうに手を差し延べる。
「立てるか?」
「う、うん…ありがと…」
差し出された手を取り、その手に縋って立ちあがった。
足の力が抜けてしまってへたり込んでしまったが、何とか自分の足で立てる力が戻っていて安堵の吐息をつく。
けれど乱れた鼓動と赤く染まった頬は簡単には収まってくれない。
たった数分前に出会った男に告白をされ、あまつさえ唇まで奪われたのだ。
心穏やかでいられる筈などない。
それに―――…
(初めて……だったのに……)
別にそういう事に拘っていたつもりはなかったが、呆気なく、しかもあんな男に奪われてしまった事に思いの外傷ついている自分に気づいて余計落ち着きを無くしていた。
「まぁ…とりあえず一段落したし、帝国に乗り込むまでの間はしばしの休息だな。部屋行ってゆっくりしようぜ」
マッシュが場の雰囲気を取り持つようにそう言ったので、「ああ、そうだな」とエドガーも相槌を打つ。
扉を開けてマッシュは宛てがわれた個人部屋へ向かって行った。
「セリス。アイツに言われた事は気にしない方がいい。まぁ…された事は気にしてしまうかもしれないが…。とにかく部屋でゆっくり休みなさい。君が一番疲れている筈だからね」
エドガーはセリスの背をポンと叩いて、労いの言葉をかけたあとマッシュに続いて賭博部屋を後にした。