Crash down!

6


 追い込まれた理性を振り払うように、ロックは早足でセリスの部屋へと向かった。


 これ以上近くにいられたら…
 これ以上触れられていたら…


 自分でも一体何をしでかすかわからない。
 とにかくもう早く彼女を降ろしたいという一心で、必死の形相で部屋へと向かう。




 セリスの部屋の前へと辿り着き、部屋の扉を足で蹴り開けた。
 室内に入り、いの一番にセリスをベッドに降ろす。

 柔らかなベッドに彼女の身体が沈み、金の髪が小鳥の羽のように、彼女の背を覆いながらふわりとシーツに広がった。
 ベッドに横になったセリスの目はもう限りなく眠そうで、このまま眠りにつくのも時間の問題だ。

 彼女のそんな様子に、何故か息を切らしていたロックはようやく一息つき、辛くも己の理性を保てた事に胸を撫で下ろす。
 自分の腕から彼女の温もりが消えていくと共に、崖っぷちに立たされていた理性も落ち着きを取り戻しつつあった。

 ベッドサイドに腰掛け、セリスの顔を覗き込む。
 スプリングの柔らかさが寝心地良いのか、早くも寝息をたてて彼女は寝入っていた。
 普段の真面目で堅い彼女は見る影もなく、目の前で眠るセリスはまるで子供のようで。

 ロックはそれを見てようやく目を細めて相好を崩し、毛布を掛けてやりながらぽつりと呟く。



「…ったく…、何だよその幸せそうな顔…」



 眠る彼女の頬をふにっとつついた。
 桜色に染まった柔らかい頬は、ハリと弾力があって実に突き甲斐がある。



「俺の苦労も知らないで…」



 自分の苦悩を全く知らずに幸せそうに眠る彼女に少しばかり不満を感じ、ちょっと強めにふにふにと頬をつつく。



「無防備なんだよおまえ」



 心に渦巻いていた愚痴を零しつつ、頬を軽くつねってやった。



「…そんなんじゃ、俺に何されても文句言えねぇぞ?」



 つついてもつねっても話し掛けても起きないセリスに、もう完全に寝入ったのだと認めてふっと口元を緩める。
 彼女の寝顔をこのまま見ていたいという思いも駆られたが、それを振り切り、部屋を出ようと立ち上がった。

 ああは言ったが、実際に眠る彼女に手を出そうなどという気はなかった。
 いや、全くないかと言われれば嘘になるけれど…。
 それでも理性のある内にこの場を離れておかなければ、今は何をしでかすか自分でも判らない。
 折角今まで堪えてきたのに、そうなってしまえばこれまでの全ての辛苦が水の泡だ。
 燻る熱を胸に宿したまま彼女を見ていれば、その燻りはいつか大きく燃え上がり、自分を抑えられなるかもしれない。
 だから、彼女を起こさないように静かに部屋の入口まで歩き、ドアノブに手をかけた。

 その時。




「……いいよ?」




 背後でぽつりと囁かれた声。
 眠っていた筈のセリスが、いつの間にか、背を向けるロックに潤んだ視線を向けていた。




「いいよ、ロックなら…」




 反射的に振り返り、ロックが驚きの言葉を零す間も与えず、セリスは二の句を紡ぐ。




「ねぇ、ロック…、」




 セリスは柔らかく微笑んで、告げた。


 ロックの理性をなし崩しにする究極の一言を。


















「   しよう?」






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