■■■■ Crash down!
4
ざわつく鼓動。
ちらつく欲望。
ぐらつく理性。
先程の一杯が効いたのか。
はたまた別の理由からか。
頭がクラクラする。
彼女にその気が全くないのは判っている。
けれど。
緩慢な仕草や柔和な表情。
甘えた口調や潤んだ瞳が。
完全に…誘惑のそれだった。
それに応じてロックの鼓動は自分の意に反して速度を増し、心は自分の制止を振り切り彼女を欲し始める。
このままこの場にいては、匂い立つような彼女の色香を前に、自分を制御する事もままならなくなるような予感がして。
暴走しそうな心を戒め、ロックは苦悶する心を落ち着かせるように堅く目を閉じた。
そして胸に渦巻く様々な欲求の全てを吐き出すように、言葉と共に深く長い溜息をつく。
「……俺はいいからお前はもう―――」
その言葉の途中で、不意に。
自分の左頬に、ふわりと柔らかく触れた彼女の熱い指先。
「―――――ッ!??」
「―――…くるしいの?」
突然頬に感じた彼女の指先の感触に、ロックは閉じていた目を弾かれたように見開いた。
驚きのあまり声を上げそうになり、慌ててそれを飲み下す。
「ロック…、くるしいの…?」
驚くロックをじっと見つめ、ソファから身を乗り出して腕を伸ばすセリスは、なおも心配そうに見上げながら同じ言葉を紡いだ。
目を伏せ、眉を寄せたロックの表情を見て苦しそうだと思ったのだろう。
確かに、苦しみに堪えていた事には違いないのだが…。
本当に心底心配しているような、そんな表情で見上げてくるセリス。
それ以外に、彼女に他意はないのだと判っている。
それでも。
もう…勘弁してくれっ…
平静を保とうとしていた心は、彼女に触れられただけで一瞬にして呆気なく乱され、胸を打つ鼓動は尚更速度を増した。
そんな表情で そんな瞳で そんな口調で
これ以上何かをされたなら…理性を保つ自信など全くなかった。
こんな彼女を目の前にして、それでも理性を保てる程自分は真人間ではないという事を、自分自身がよく知っている。
だから。
「べ、別になんでもねーよ!」
頬に触れる彼女の手を引き剥がしながら、ロックはあえて苛立たしげにそう告げた。
「でも…、今すごく苦しそうなカオ…」
「大丈夫だっ!」
「ほんとに…?」
「本当に何ともない!とにかく!……お前はもう寝ろ。
こいつらはもう起きそうにないし、お前だけでも部屋に帰れ」
すると、セリスが眉をへの字に下げて不満の声をあげた。
「え〜〜〜〜」
「え〜〜〜〜、じゃない。今何時だと思ってるんだよ。明日に支障をきたすだろ?部屋まで送ってやるから」
ロックは腕を伸ばしてセリスの両手を取り、立ち上がるように促した。
セリスはその手に縋るように立とうとしたのだが…ぽすん、と再びソファに沈む。
「あれ?…立てない…」
首を傾げるセリスに、ロックは唖然としたがやがて溜息をつき、
「……しょーがねーなぁ……」