Crash down!

2


「〜〜〜〜〜〜ッ!!」



 苛立ちは頂点に達したが、もう何を言っても無駄だと判断し、ロックは肩を落として力無く溜息をついた。
 そしておもむろにソファに視線を移す。
 2人がけのソファに、セリスがその身を沈めていた。




 ……酒瓶を胸に抱えて。





 苛立ちを振り払うかのようにくしゃっと頭をかき、ロックはゆっくりセリスに歩み寄った。



「…セリス。起きろ。何やってんだよお前まで」



 呆れを交えた声色で言いながら、セリスの肩を揺する。



「…ぅン…」



 丸くなって眠っていたセリスが、妙に艶っぽい声をもらしながらゆったりとした動作で仰向けにコロンと転がった。
 一瞬きゅっと目を瞑り、そして閉じていた瞼をうっすらと持ち上げ、虚ろな瞳で数回瞬きしながら、



「…あ、ロック…おかえりなさーい…」



 まだ眠そうな瞳でロックを見上げて微笑むセリス。
 その口調は、普段の彼女からは想像もできないような、まるで甘える子供のようで。微妙に呂律も回っていない。
 セリスは酒瓶をぬいぐるみでも抱くように大事そうに胸に抱え、ソファの座面に緩慢な動作で起き上がった。



「お帰りなさーい、じゃないだろ。何やってんだよ?何なんだこいつらは」

「えっと…、へっぽこギャンブラーと、筋肉バカと、色魔の王サマ…?」



 小首を傾げた後、まだ半分夢心地のような声色で、質問の意図と全く掛け離れた答えを告げてくれるセリス。



「……いや、そうじゃなくて……」



 ロックは頭を抱えた。

(こいつも相当酔ってるな…)

 呆れて溜息をつくロックに、何故かセリスは満足気にふふっと笑い、ソファに座ったまま手を伸ばした。
 そして側にあった空のワイングラスを手に取る。
 その瞬間、彼女の手の中にあったボトルのラベルが垣間見えたロックは思わず目を見張った。



「そ、それは…!幻のワイン『ゴールド・オブ・デザイア』!?」





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『ゴールド・オブ・デザイア』
(略称・GOD)



世界最高ランク醸造の、世に100本程しかない
グレート・ヴィンテージワイン。
凝縮を極め、まるで葡萄そのものを噛み砕くかのような濃厚さ、
そしてビロードのような舌触りと芳醇な熟成香で、
その稀にみる出来から『神の奇跡』との別名を持つ。

現在フィガロ地方でしか流通しておらず、
それ故希少価値も高い。
ジドールでの落札価格は軽く200万ギルを超えるというコレクター垂涎の激レアワインである。


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 それが何でここに…。


 とは言っても、そんな超高級ワインを難無く買い占められる人物など、此処にはただ1人しかいないのだが。




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