■■■■ heavenly kiss
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甘く響くその低い声にも、その声にまでも過敏に反応して意図せず零れてしまう吐息まじりの自分の声にも、今すぐ耳を塞いでしまいたいくらい。
けれど、自由を取り戻した筈の手は今だ彼の眼差しに縛られたまま、動かす事さえままならない。
ふいに、自分が自分でなくなりそうな恐怖に襲われる。
燻る熱を持て余しながら、私はこれまで必死に繋ぎとめていた、自身をかたどる全てのものを今にも手放してしまいそうで。
無意識に縋るものを求めて彷徨うように手を伸ばした。
その手は彼の空いた手に捕えられて、絡められた指は宥めるように力強く握られる。
それでも制御出来ない自身の身体に恐れは増すばかりで、未知なる感覚に抗うように、震える指先は彼の手の甲に爪を立てた。
触れられる度に寄せては返す、波のような甘い疼き。
それは頭の先からつま先までさざ波のように広がって、みるみるうちに波高を上げながら、かき乱されて高ぶった意識ごと掠おうとする。
何度も、何度でも。
凪いでもすぐに水嵩は増して。
快楽の渦は、じわじわと身体ごと取り込んで沈めようと荒れ狂う。
恐怖はいつしか切なさを帯びた別の色へと染められはじめて。
少しずつ切迫していく呼吸。
絶え絶えに零れていく吐息。
熱に浮され堕ちていく身体。
このままじゃ、月夜の海に沈んで溺れてしまう。
けれどそれすら
すべては彼の思うまま。