■■■■ それでも君を愛してる
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(今は二人きりで来てる訳じゃないんだよな。ラブラブしたいのはやまやまだけど、とっとと食料捕って帰らないと…)
海と言えばやっぱり魚だろう。
釣れるかどうかはわからかったが、釣れなかった場合は貝でも拾えばいい。
とりあえず二人で釣りをしようと思い、持ってきた釣竿を取り出した。
「セリス、コレ。釣ざ…」
2本のうちの1本をセリスに渡そうと、にこやかに隣にいるであろう彼女を見遣った。
だが、そこに彼女はいなかった。
「あれ…セリス?」
不思議に思って辺りを見回した次の瞬間…
・・・・・・・・・・。
俺は唖然とした。
彼女の姿はもう俺の隣にはなく…
バシャン!
バシャン!!
ザッパ〜ンッ!!!
彼女は海の中に立っていた。
水面から身体の半身だけを出して。
そして魚を捕っていた。
素手で。
何と言う手捌きだろう。
その様はまるで、熊が鮭を捕るかのごとく左へ右へ魚を掬い上げ、しかもウマそうな魚、マズそうな魚を怒涛の速さで選別し、ウマそうな魚だけがどんどん砂浜にあげられていく。
それはもう鮮やかに。
そして果てしなく華麗に。
あれは…あれは誰…ですか??
どれだけ目を擦っても、どれだけ目を瞬かせても、あれはセリスに他ならなかった。
水飛沫を豪快に上げながら、魚を取る彼女。
その顔はさながら能面の如く、動きは精密機械のように寸分の狂いもない。確実に魚を追いつめてあげていく。
まさに、狙った獲物は逃さない、そんな気迫さえ漂っている。
そんな神懸かった彼女に呆気に取られている内に、何故だか目の前が滲んできた。
俺の視界を遮るこの温かくてしょっぱいものは一体なんだろう。
…あぁセリス。
俺がいない間に…君は変わってしまったんだね。
出会った時よりも強く、そしてずいぶん野性的に…。
でも…でも俺はそんな君でも…
いや!
そんな君が大好きさッ!!!!
「捕ったどぉぉおおおお〜〜〜〜ッッッ!!!」
セリスはとびきりデカイ魚を頭上に掲げて、打ち寄せる大きな波をものともせず
夕日と水平線に向かって咆哮をあげた。
まるで後光のように夕日が逞しい彼女を神々しく照らしている。
俺は、そんなステキで眩しい彼女の姿を温かい目で見つめて微笑み、頬に温かいものが流れるのを感じた。
そして、フェードアウトしていく意識の中、彼女に対する変わらぬ…いや、これまで以上の愛を沈みゆく太陽に誓うのだった…。