■■■■ 愛情とガラクタに囲まれて
5
一番言ってはいけない事を言ってしまった。
ロックにとってトレジャーハントは生き甲斐。
そしてこの家の物はどれも皆彼が苦労して得た宝物なのに。
その全てを一言で否定してしまったのだ。
宝の価値がわからない私にあんな事を言われたロックが怒っていないはずはない。
本当に、なんて事を言ってしまったんだろう。
けれどもう取り返しはつかない。
―――だったら…、イヤならお前がこの家から出ていけばいいだろ…
冷たい視線で冷たく言い放たれる言葉。
ふいにそんなヴィジョンが頭を過ぎり、急に怖くなる。
嫌な予感が背筋を這い、胸を覆う苦しさに知らず視界が歪んだ。
「…わかった。だったら、」
ロックの声が低く響いた。
その声にビクリと反応した私はその先の言葉を聞くのも怖くて、俯いたまま顔を上げられずにいた。
…のだけれど。
「捨てよっか」
へ…??
怒るでもなく責めるでもなく、やけにあっさりとした思いがけない言葉が降りてきて、驚いて思わずロックを振り仰ぐ。
見上げた先には、いつもと変わらない屈託のない瞳。
けれど少しバツの悪そうな表情で頬を掻く彼の姿があった。
「捨てよっか。確かにちょっと…集めすぎたよなぁ…」
言いながら高々と積み上げられたお宝の数々を眺めて苦笑するロック。
私は彼の言った事を瞬時に理解出来ず、呆然としてその姿を見つめていた。
どうして…何で怒らないの?
「だ…だって、これはロックが世界中を駆け巡ってようやく手に入れたお宝なんでしょう…?」
「そうなんだけど、でもいいんだ」
「ど、どうして…」
「だってさ、」
ロックは不安げに見上げていた私の頭に手を置いて、ポンポンと数回頭を撫でた後、にっこり微笑んで言った。
いつもと変わらない優しい口調で。
「手元に置いておきたいお宝はお前だけだし」
「………!」
一気に体温が急上昇した。
火がついたように顔が赤くなる。
と同時に、気が緩んだのか涙が一気に零れ落ちた。
そんな滂沱の涙を流す私を見てロックはギョッとして慌てふためく。
「ちょ…何で!?俺ヘンな事言ったか!?」
「ううん、違うの…!」
「だったら何で…」
「違うの…!ごめんなさい…!」
「え?」
「酷い事言って…ごめんなさい…!」
「セリスは何も悪くないだろ?元はといえば俺が悪いんだし…」
「違うの!私が…、本当に…ごめんなさい…」
ロックに言った事への申し訳なさ、それももちろんあるけれど。
苦労して得た価値あるお宝よりも私の方が大事だって言ってくれた事、それが何より嬉しくて。
安堵の思いと共に両の瞳から零れ落ちたものは…嬉し涙だった。