愛情とガラクタに囲まれて

6


 そうとは知らず顔を覆って謝る私に戸惑うロックは、どうしようかと考えあぐねいた様子を見せた後、私を優しく引き寄せ、その胸に抱きとめた。
 そして何も言わず、子供をあやすように背を撫でられる。

 ゆっくりと。優しく。宥めるように。

 木漏れ日のような優しさ。
 心地よい温もり。
 彼の腕から、鼓動からそれらは伝わって、身体も心も包まれる。
 与えられる、言いようのない幸せ。


 いつも…。
 ロックはそうやって色んなものを私にくれる。
 それはものに限らず、本当に色んなもの。

 優しい言葉や、溢れんばかりの愛情。
 温かな手のぬくもりや、抱き締められる腕の強さ。

 くれるのは、いつもロックだった。



「私…いつもあなたに貰ってばかりね」



 ぽつりと呟いた私の言葉を聞いて、怪訝に首を傾げたロックは抱く腕を緩めて私を覗き込む。



「え?」

「それなのに私、ロックにしてあげられる事が何もないなんて…」



 あのバカでかいサボテンダーの剥製にしても、思い違いとはいえ私の為に苦労して手に入れてくれたものだ。
 それなのに、ありがとうの一言も言わずに怒ってしまうなんて。
 なんて心の狭い女なのだろう。


 今まで私がロックに何かをあげられた事なんて何ひとつないくせに…。



「いや、あるよ?」



 ふいに、思ってもいなかった答えが頭上から降りてきた。



「とりあえずさ、今すぐ欲しいものがある」



 今度は私がロックの言葉の意味を理解できず、目を瞬いて首を傾げた。
 ロックは苦笑して、少し言いにくそうに言葉を口にする。



「…実は俺、腹減ってんだよ。すごく」



 言われてはっとした。
 そういえば、帰ってくるなりお宝とそれにまつわる話を聞いていて、お茶しか用意していなかった事に気がついた。



「そ、そうよね!お腹空いてるわよね!すぐご飯の用意…」



 慌ててキッチンに向かおうと身体を翻した。
 けれど言い終わらない内に腕を引かれる。
 


「そうじゃなくて」



 ???

 はっきりしない言い方をするロックに、戸惑う私はまた目を瞬かせる。
 すると、間の抜けた表情を浮かべていた私に突然触れるか触れないかの軽いキスを落として、悪戯っぽく笑って彼は言う。



「俺が食いたいのは、飯じゃなくてお前」

「……へ!?」

「だって俺が今欲しいのはお前だもん」

「な…―――ちょ、ロ、ロック!?」



 反論する間もないまま、有無を言わさずロックは私を横抱きにして、そのまま軽い足取りで寝室に向かって行った。



「ちょ、ちょっとロック!」

「なに?抱き枕が俺じゃ不満?」

「や、そうじゃなくって…!」

「サボテンダーのはまた今度手に入れてくるから、今日は俺で我慢しといてよ」

「だっ、だから違うってば…っ!」

「はいはい、大人しくしてようなー」

「〜〜〜〜〜!!!」







 寝室でのその後の様子を知っているのは…窓から覗く蒼い月だけ。





fin.

(2009.3.10)






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