戦場のメリークリスマス

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 ジドールの街の高台にあるそのレストランは、窓際からの景色が絶景だと評判の店だった。

 窓の外にはぽっかりと浮かぶきれいな月。
 眼下にはクリスマス特有のネオンで煌めく町並みが広がっている。
 店の内装も金持ちの街なだけに申し分なく、落とした照明の中で揺らめくキャンドルの灯がしっとりと場の雰囲気を盛り上げていた。

 窓際の一番景色のよい席に座り、二人は聖夜を祝った。
 周りに他の客もいたが、そこはもう二人の世界。



「メリークリスマス!ロック」
「メリークリスマス!セリス。ああ、今日のセリスは一段とキレイだな…」



 歯の浮くような台詞がさらりと言えるのは、この場の雰囲気とクリスマスという特別な日だから成せることなのだろうか。
 そんな台詞を聞いたセリスは思わず吹き出して笑う。



「やだ、ロックったら。エドガーみたいな事言っちゃって」
「いいだろたまには。んじゃ、君の瞳に乾杯」
「似合わないって」
「うるせぇよ(照)」



 カチン、と小気味よくグラスを合わせ、ワインを煽った。


 いつもより少し高級な料理に舌鼓を打ち、いつもより少し強めのワインを飲み、他愛もない会話をしながら過ごす恋人達の楽しいひと時はみるみる内に過ぎて行く。

 程よく酔い、空腹も満たした所で頃合いを見計らってロックは指をパチンと鳴らし、ウェイターに目配せした。



「例の物を…」
「かしこまりました」



 頭を下げてウェイターが去って行く。



「例のモノ…?」



 不可解なロックの行動に首を傾げて尋ねるセリスに「いいからいいから」と笑顔を送る。
 ややあって、ウェイターが何かを運んできた。

 それは、言わずと知れたロックの努力と汗と涙の結晶であるクリスマスプレゼントだった。

 ウェイターにより二人がかりで運ばれてくるプレゼントに、セリスは驚きを隠せないでいた。
 そして、二人がかりで運ばれてくるプレゼントの後ろから、白い薔薇の花束まで抱えたウェイターまで現れる。



「ロック様。お持ちしました」
「ありがとう」



 セリスはそんなやり取りに、ただただ呆気に取られていた。



「セリス。コレ俺からのクリスマスプレゼント」



 そう言ってズッシリと重いプレゼントと薔薇の花束をロックから手渡されたセリス。
 ラッピングを解き、中身を確認したセリスは驚きで言葉を失った。
 中身は、英雄の盾だった。



「ありがとう…!すごく嬉しい!」



 彼女は心底嬉しそうに熱っぽい瞳でロックを見上げ、男が二人がかりで抱えてきた色気のカケラもないズッシリ重いその盾を、軽々と胸に抱いて喜んだ。
 その様子を見たロックも満足気に微笑む。



「…でも大変だったでしょう?」



 彼女もこの盾を手にするのにどれ程の事を成さねばならないのかを知っていた。
 その上での質問だった。
 だが、その苦労を微塵も感じさせないような口調で



「いいや、全ッッ然!そんな事くらい朝飯前だぜ!」



 余裕余裕!と答えて、胸を張り笑うロック。
 しかし本音は朝飯前でも昼飯前でもましてや夕飯前でもなく…明らかに強がりであった。
 よく見れば笑顔が少し引き攣っている。




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