■■■■ 戦場のメリークリスマス
4
* * *
その日の夜。
あらかじめ予約しておいたジドールのこ洒落たレストランの前でセリスと待ち合わせをした。
もちろん今夜はドレスコード。
ロックもエドガーに借りた黒のスーツで正装し、店の前でセリスを待った。
「ちょっと早かったかな」
ロックは色々前以て仕込みがあった為、少し早めに店に来たのだった。
今は待ち合わせ時刻の10分前。
ゆっくり待つか…と思っていたその矢先に、踵を鳴らし、小走りにこちらへ向かってくる足音が聞こえてくる。
「ごめんなさい…!ロック、随分待った?」
そう言って息咳切って目の前に現れたセリス。
その姿を見て、ロックは思わず息を飲んだ。
身体のラインに沿った細身の鮮やかな青のイブニングドレスを身に纏い、
普段風に靡かせている髪は後れ毛を残してアップされ、
素顔でも十分綺麗な顔立ちは化粧を施されてより美しさを際立たせていた。
オペラ座でマリアに扮した時もはっとさせられる程美しかったけれど…今日はそれ以上だ。
呆然としてじっとセリスを見つめていると、視線を感じたセリスは顔を背け、少し照れた様子で俯いた。
「これね、ティナとドレスを買いに行って、リルムが化粧してくれたんだけど…普段こんな恰好なんてしないから恥ずかしくって…」
「………」
「へん、かしら…?」
「……………」
「ロック…?」
返事のないロックを訝しみ、顔を上げてみると…
目の前には夜目でもわかる程に顔を赤くして口元を隠しているロックがいた。
「…お前そんなにキレイだったっけ?」
「…『私はあの人の代わりなの?』」
「へ?」
「あ、いや、あの…あれ?どこかで聞いたような台詞だったから条件反射でつい…」
「ぷっ、ヘンなヤツ」
セリスの意味不明な発言にロックは笑うと、再びセリスに見惚れた。
「…でもホント、すっげぇキレイ」
「ほんとに?」
「ああ。惚れそうなくらい」
ロックの言葉に、セリスはふふっと笑う。
「もう惚れてるくせに」
「…だよなぁ」
ロックもつられて顔を綻ばせる。
「そういうロックも素敵よ、スーツ。惚れちゃいそ」
今度はロックが口の端を引いてにやりと笑った。
「もうゾッコンなくせに」
「ふふっ、そうね」
二人は顔を見合わせて笑いあった。