■■■■ 戦場のメリークリスマス
2
* * *
乾いた風が吹きすさぶ荒野。
閑散とした寒々しい景色。
ただ、魔物の気配だけが引っ切りなしに漂う荒れ地に、男が一人立っていた。
逃げる事も一切せず、果敢に魔物に戦いを挑む。
あるときはアルテマウェポンで技を繰り出し、
あるときはメテオで敵を一掃し、
あるときは敵からアイテムをちょろまかし、
あるときはMPやHPが尽き果ててもなおミラージュダイブで敵に突っ込み…
そんな生死を賭けた死闘を、男は一人で繰り広げていた。
その手には…
血塗られた盾が握られていた。
「俺は必ずこの盾を英雄の盾に変えて、セリスにプレゼントしてみせる…ッ!!」
満身創痍ながらも固い決意の元叫ぶロック。
眼光鋭く、愛する女の為に何度も敵に立ち向かって行くその姿はなんとも勇ましく、そして実に男らしかった。
しかし、彼のトレードマークであるバンダナの代わりに装備されたものが、彼の気迫も闘志も全てを台無しにした。
それは、
男の彼には全く不似合いな真っ赤な
リボン
頭に装備されたその大きなリボンは真剣な彼の強い眼差しすらも、見た目で全てをぶち壊す程の威力を発揮していた。
正直、その姿は滑稽かつお笑いであった。
「俺だって…別に着けたくて着けてるわけじゃねぇし…(泣)」
血塗られた盾というのは呪いの盾である。
255回戦闘を重ねると英雄の盾へと変化するというその盾は、普通に装備すると混乱バーサクその他もろもろかかってしまい、ステータス異常を防ぐリボンをつけていないと装備できたものではない代物だった。
それを敬遠して今まで誰も装備しなかったのだが、ロックはここへ来てそれを大きく後悔していた。
少しくらい装備して戦闘回数を重ねていればここまで苦労することはなかったのだが…。
やむなくロックは恥を捨て、プライドを捨て、全ては愛する彼女の為に、自ら泣く泣くリボンを装備してこの地に立ち…
そして今に至る。
まだ35戦目。
先は果てしなく遠い。
「誰にも見られたくないからあえて一人で来たものの…一人で255戦はキツすぎるっつーの!―――…ッ!?」
誰ともなく一人ごちたその隙に、不覚にも敵の攻撃を受けてしまった。
しかし思ったより軽いダメージで済んだ。
雑魚敵相手なのだから当然なのだが。
「ふふっ…そんな程度で俺に勝てると思ってんのか?俺はな!愛する女の為に戦ってんだ!テメェなんかにやられてたまるかよ!」
そう告げて指を差して威嚇し、ロックは敵に向かって臆する事なく走り出した。
けれど…
頭にはデカくて真っ赤なリボン、手には呪われた盾を持ち、決め台詞的な言葉を吐きながら雑魚敵に向かっていくその姿は、端から見れば全てがお笑いなのだと気付かないのは本人ばかりなり。