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答えを知るために


第87話



仕事がひと段落ついたところで居間に戻ると、お風呂から上がった土方さんが、流し姿でテレビを見ながら寛いでいた。



「お。終わったか。」

「あ、お茶淹れましょうか?それかビール、」

「…いや、お茶で。助かった、さすがに台所を勝手に触るのは気が引けてな。」



そういって眉を下げる土方さんに、私は笑いながら、これからは自由に冷蔵庫も台所も使ってくださいねといいながら、コップにお茶を注ぎ、手渡した。



「山崎からの連絡はみた。今のところ家付近で奴の姿はねぇし、安心してお前も風呂に入ってこい。ああ、あと風呂の小窓だが、勝手にタオルで隠しておいた。念には念をだ。これからは毎日そうするか、外側に何かつけたほうがいいだろ。」



そういって土方さんは何かを探す手つきをしたが、すぐに罰が悪そうに手元のお茶を飲んだ。土方さんが何をしたいのかすぐに気が付いた私は、よかったらと部屋の二階を指さした。



「…2階の、廊下の奥にバルコニーがあるんです。洗濯物を干す場所なんですけど、今は何も干してないので、よかったらそこでタバコ吸ってください。すいません、部屋の中は深月さんたちに聞かないと、勝手な判断できなくて…。」

「いや、それが当たり前だ。…悪いがお言葉に甘えてバルコニー使わせてもらう。」



そのあいだにでも風呂に行けと、再度、母親の小言のようにお風呂に促されたので、素直に私もお風呂にはいることにした。





風呂場を覗くと、土方さんが言っていた通り小窓にタオルがかけられていた。念には念を。そこまで考えが至っていなかった私は、改めて自分の甘さを痛感する。守ってもらうばかりじゃダメだ。自分で自分のこともしっかり守らないと。そう強く気を入れ直して、私は湯船に浸かった。



「つかれた…。」



ぽつりと出た無意識の言葉。どうしてこんなことに。と、思わずにはいられない。みんながフォローしてくれたように、私がどう行動していても、こうなっていたかもしれない。けど、人の好意に勝手に拒絶したこと。そのこと自体がよくなかったとも考えられる。私はおそらく、



「…傷つけたんだ。」



ピチャっと蛇口から水が落ちる。

好きの気持ちは人それぞれ。それを相手が受け入れるか受け入れないか。受け入れないとしても、好きの気持ちそのものを拒絶するのは、違うのかもしれない。



「(あぁ、…それでか。)」



ふと、腑に落ちた気がして私は湯船にゆっくり沈んでいく。

総悟とのお見合いで気持ちが晴れなかった理由。あれは、相手にだいぶ問題があったとは思う。けど、好きの気持ちはそれぞれ度合いも、形も違う。それを勝手に、それは違うと否定すること、人の思いを身勝手に拒否したことが、無意識に私の中で引っかかっていたのかもしれない。



「……。」



私は、ちゃんと答えなければならないのだろう。





「長風呂なんだな。」

「…ちょっと、のぼせました。」

「だろうな、ほらお茶。さっそく勝手に台所使ったぞ。」

「ありがとうございます。」



お風呂から上がり、土方さんに声をかけると、今度は土方さんがお茶を渡してくれた。それを受け取り、そっと土方さんの隣に座る。居間の端には、すでに布団が一組敷かれていた。土方さんは私との同居生活中は、居間で寝ることになっている。



「…寝れそうか?」

「…寝ないとですね、明日早いですし、仕事もありますしね。」

「だな。俺はしばらく起きとくから、安心して自分の部屋に行っていいぞ。」

「……土方さんは、」



私がそう言葉を漏らすと、土方さんは私が何か話したがっていることをすぐに察してくれて、なんだ?と、あぐらをかきなおした。



「自分が好きですか?」

「は?」



何を唐突に?といった顔の土方さんだったが、私が冗談で言っているわけじゃないと分かると、眉間に皺を寄せながら、やけに難しい質問だなと、お茶を一口飲んだ。



「好きか嫌いかで自分のことを考えたことがねェ。けど、自分の弱い部分は、分かっているつもりだ。」

「弱い、ところですか?」

「…あぁ。だから、強くならなきゃいけねェって、努力はしている。」

「…。」

「今の自分に満足してるかってーと、まだまだだしな。お前の求める答えになってねーと思うが、好きか嫌いかに近いニュアンスでの俺の答えはこうだな。」



土方さんはそう言ったが、私にはその答えで十分だった。私もお茶をもう一口飲んで、ありがとうございますとお礼を言ってから、自室へ行くことにした。



「…おやすみなさい、土方さん。」

「あぁ、おやすみ。名前。」





朝4時半にアラームが鳴る。寝ぼけ眼のまま、一階へと降りる。居間では、土方さんがまだ寝ている様子だった。起こさないように、そっと居間を抜けて洗面台へと向かう。鏡に写っている自分をみて、深く息を吐きながら、私は身支度を整えた。



「はえーな。」

「あ、…起こしてしまいましたか?」

「いや、起きる時間だった。」



居間へと戻ると土方さんがちょうど起きていた。少し髪が乱れている姿が、相変わらず可笑しくて、私は笑いを堪えながら、朝ごはん用意しますね。といって、台所に立った。



「…なに、飯。」

「っ!!っと、お、王道に…ごはんとお味噌汁となにか…魚かお肉だったらどっちがいいですか?」

「……肉。」

「お稽古もありますもんね!ちゃちゃっと作ります!あ、マヨネーズも昨日買ったので、冷蔵からどうぞ!」

「おう。」



朝一から妙なテンションで返事をする私を気にもかけず、土方さんは用意してくるといって、洗面台へと向かった。

急に台所に立つ私の後ろに立って、耳元に近い場所で話しかけてきたので、ついびっくりしてしまった。寝起きで声も一段と低いしで、心臓に悪いのでやめてほしい。私は落ち着きを取り戻すため、台所にかけてあるエプロンをつけて、勢いよく腰紐を結んだ。





「「いただきます。」」



土方さんと向かいあって朝食をとる。そういえば、土方さんに手料理を振る舞うのは初めてだと気付き、私は自分のご飯には手をつけず、じっとお味噌汁に口をつける土方さんを盗み見た。味噌加減、好みに合うだろうか…。



「…んまい。」

「よかったぁぁぁ…!!!」

「肉炒めもうまい、卵焼きも…うまい。お前、料理うまいんだな。」

「自炊が多いので下手ではないと思ってはいるんですが、人それぞれ好みがありますからね、お口にあってよかったです!」



そういって私もようやく自分のご飯に手をつける。うん、いつも通りの私の味だ。



「けど、甘い卵焼きなんざ初めて食った。」

「……あっ!?ご、ごめんなさい!!!甘いもの苦手でしたよね?!?!」



いつもの癖で、相手の好みも聞かず甘めの卵焼きを作ったことを謝ると、いや食べれるし美味しい。と土方さんは言ってくれた。けど、土方さんが甘いものを好きなイメージはない。なんだか申し訳ない気持ちになり、よかったらマヨネーズかけてください…と、自ら味変をすすめた。



「お前、ほんと甘いもの好きなんだな。」

「ふふ、卵焼きは、これよりも甘くて美味しいのを知ってて、それに近づけたくて、実は練習してるんです。」



ふわふわ加減がうまくいかないんですよねーといいながら、私もひとつ卵焼きを食べる。…うん、やっぱりこれは、銀さんが作るほうが美味しい。



「…これ食べたらすぐ出る。山崎が必ずみてるとはいえ、何があるかわからねぇ、しっかり気合いれてけよ。」

「…はい!」



よし、そういって土方さんは男らしくご飯をかけこんで、おかわり。といって茶碗を差し出した。気遣いでもなんでもなく、本当に美味しいと思って食べてくれてることが伝わって、私は弾んだ声で返事をしながら、お茶碗を受け取った。

だけど、土方さんはやっぱりというか、おかわりしたごはんと、おかずには、たっぷりマヨネーズをかけていた。



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