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ようこそ三日月堂へ!

誰かが誰かのために


第85話



店開けんの?と銀さんに聞かれ、私はよろけながら、レジのカウンターに手をついた。どうする、どうする?これは立派な犯罪だ。お店に盗聴器があったのなら、必然と犯人は店に入れるお客さんか業者だ。そんな誰かわからないままお店を開けることは危険だと判断し、私は頭ぎゅっと下唇を噛んだ。



「…お店は、休みます。」





それから銀さんはすぐに誰かに電話をかけた。そして数分後、お店の外からパトカーの音がし、お店の前で停まったかと思ったら、ドンドンとシャッターを叩かれた。銀さんが無言でシャッターを少し開けるなり、その隙間から屈んでお店に入ってきたのは、土方さんと近藤さんだった。



「名前ちゃん…っ!!!!」



そういってカウンターの椅子に座っていた私の元に駆けつけてくれた近藤さんの顔は、ひどく心配した顔で、私は無意識にすいませんと一言謝った。



「謝ることはなにもない!!ここからは、ちゃんと警察として君を護るよ。もちろん、俺個人としてもだ!盗聴器だなんて、さぞかし怖かっただろ?」

「…昨日のことも総悟から聞いてる。」

「…え、?総悟から?なにを?」



私のその返事に土方さんは驚いた様子で、お前言ってないのか?と銀さんを見た。銀さんはバツが悪そうに、あーといって渋りながらも、話してくれた。



「あー…あれだ、お前が俺とデートした日だよ。」

「なァにィィィ?!?デートだぁァァァ?!?!?」

「うるせェェゴリラァァァ!!!!声でけぇんだよ!この狭い店で叫ぶんじゃねーよ!響くだろうが!!」

「名前#ちゃん!!こんなやつとデートしたっていうのか?!?なんてことだ!!!俺とは一度も!!」

「近藤さんちょっと黙ってろ。話が進まねぇ。」

「あの日、視線をちらほら感じてたんだよ。けど、俺もこういう仕事してっから、まぁ狙いは俺だろうって思ってたけど、お前がお見合いするって聞いて、もしかしたらその線もあんじゃねーのかと思ってな。」



それで銀さんは、私のことを心配して昨日待っていてくれたのか。怪我をしている身体で。そのことを理解した瞬間、無性に泣きたくなった。銀さんは、どこまで人に甘いのだろうか。



「実際、俺ひとりのときはなんもなかったのに、あの日、屯所付近でお前を待っている間に一度だけ同じ視線があったんだよ。だからすぐにお前が狙いだなって思って、沖田くんに忠告しといたわけ。で、決めつけにあれ。あ、そういや、今日も入ってたか?」



銀さんにそう聞かれた私は、今朝入っていたポストカードをそっと銀さんに渡した。表面も裏面も一緒。メッセージは、



「"夜遊びと朝帰りはどこのだれと?"」

「…おい、他には?」

「これ。」



昨日の分は銀さんが預かってくれていたため、銀さんから土方さんと近藤さんに渡すと、近藤さんはまた、許すまじ犯人んんん!!と声を上げた。



「で、盗聴器はあそこにあったんだな。」

「ちなみにあそこはちょうど、この店に唯一ある防犯カメラの死角になってから、防犯カメラで犯人を割るのは不可能だぜ。」



驚いた。被害を受けている私が何も行動できていないのに、銀さんはすぐさま盗聴器の可能性を考え、それを探し出し、そしてそれが防犯カメラの死角であることすら、もう突き止めていた。



「……名前。」

「…はい。」

「これは警察の立場としてだが、まずお前がストーカーの被害者として俺たち警察に被害届を出せば、俺たちはもちろん捜査はする。だが、実害がない、捜査をしても犯人の痕跡がないとなると、現時点では事件性が低いとみなされ、あまり深入りの捜査はできないし、悪く言えば様子見になる。これが、現実だ。」

「…。」



土方さんはまっすぐ私をみてそう話した。それはよくテレビのニュースでみる、ストーカーの被害を警察に相談していたのに事件を防げなかった、というものと同じだった。事件が起きてからでは遅いのに、事件が起きないと動けないのが、警察だ。



「お前の心中を察すれば十分に被害はあるといえるが、実害にはならない。ひとまず万事屋の言う通り、防犯カメラは役に立たないかもしれないが、人の出入りの確認のため、データーは提出してもらう。それからそのポストカードも犯人の痕跡がないか調査するために預かる。盗聴器もだ。これが、警察としてできることだ。」

「…はい。」



「犯人はおおよそ藤堂ってやつでさァ。」



誠実に話をしてくれる土方さんに、私もせめてとしっかり返事をする。それと同時に閉めていたはずのシャッターが突然あき、そこにはこれまでいなかった総悟が現れた。



「総悟!おまえいったいどこに、」

「お前にここ最近好意を抱いていたやつは、そいつしかいねェ。あいつなら同じ本屋の人間として、防犯カメラの位置も、死角もわかりやす。」

「おいおい総悟、それだけで犯人を決めつけるのは、」

「近藤さん、それ見してくだせェ。……藤堂とは、俺との見合いの前日に町で会ってやす。で、この内容、お前の二日間の行動に反応してやがる。おそらくあの時、俺との会話をどこかで聞いてたに違いねェ。」



"気をつけて、惑わされないように"

"無事に、おかえりなさい"



「藤堂との会話の内容からして、お前があいつからの好意に薄々気づいていて、拒否を示した。それだけでストーカーになる可能性は十分にありまさァ。」



そう言い切った総悟が推測する一通りのことは、実は私も考えていたことだった。そう、私も初めから藤堂さんを疑っていた。だから銀さんにもそのことは話した。だけど、



「証拠が、ない…。」



そう、証拠がないのだ。土方さんが言うように実害がなければ、証拠もない。それを今から俺たち警察が調べるんだ!!と、近藤さんは言ってくれたが、そう簡単に痕跡が見つかるとは思えない。憶測では、動きようがない。



「ちなみに昨日も一昨日も、ついでに今日も、あいつ店を休んでやす。昨日と今日に関しては突然に。」



そこまでもう調べつけたのかと土方さんが総悟に感心をみせている間、私は自分が考えてたことを、他人にも言われたことで、自分の行動を悔やんでいた。そうか、あれがもしかしたら引き金になったかもしれないのか。そう考えると、やるせない気持ちになる。



「……おい、お前がたとえ、連絡先を交換したとしても、どのみちこういうやつは、こうなってた。」



土方さんの言葉にハッとなる。それは総悟も銀さんも、近藤さんも同じだったようで、みんな無言で頷いている。それに幾分か救われるような気がしたが、それでも自分のことを憎まずにはいられない。



「誘き出すのが一番早ェ。」



突然、総悟がそう言った。近藤さんがどうやってだ?と聞くと、総悟はたった一言、現行犯逮捕でさァ。といった。それだけで、土方さんはどういう作戦なのかある程度の検討がついたのか、却下だ。とバッサリと斬った。



「なんならそれ、万事屋が請け負ってもいいけど?」

「…確かにトシのいうように、もどかしいが、俺たち警察ができることには、制限や条件がある。名前ちゃん、それに関しては申し訳ない。」

「あ、いえ、」

「だが、万事屋なら自由に動ける。」



土方さんと違って総悟の案に賛成寄りな近藤さんに、総悟はさすが大将。話が早ェや。どこぞの安定志向のニコチン野郎とは違いまさァと、土方さんを見事に煽り、土方さんの額の血管が浮き出るのか目に見えた。



「単純にお前が誰か男と一緒にいれば、相手は必然と姿を見せる。そこで何かしらアクションを起こした時に捕まえやす。」

「おい、総悟、お前さっきから本気で言ってんのか。お前が言ってることは、事件を自ら誘導して起こすってことだ。こいつを危険に晒すってことだぞ。」



そう、相手が姿を現したら終わりじゃない。何か証拠や実害そのものがないと、逮捕はできない。



「じゃあ、あんたは待てるんですかィ?相手がいつ何を仕掛けてくるかわからねェのに。その間、護衛をつける?そんなもん、ただの町娘ひとり、被害届が出たからって警察が受理しやすか?言っときやすが、俺らが証拠を掴んで相手を捕まえるまで、こいつはずっと、

…ずっと笑えねーんでさァ。」



あんた、それでもいいんですか。総悟の声が店内に響く。思いがけない言葉に、私は咄嗟に顔を隠した。笑えない。そういえば、昨日から私はどんな顔をしていただろうか。盗聴器が見つかったいま、どんな顔をしているのかわからない。



「…だとしてもだ。お前が言ったように町娘ひとり、ストーカー被害で、警察が囮捜査をするには無理がある。上にはなんて言うんだ。」

「そこはあんたの仕事でさァ、いけ土方。」

「お前は俺の仕事なんだと思ってんのォォ?!?」



土方さんの叫びに、総悟はさらっと汚れ仕事と答えて、さらに土方さんの怒りをヒートアップさせた。いつになく総悟は土方さんに苛立ちを露わにしているようにみえる。



「沖田くんの考えいいと思うけどよぉ、俺も沖田くんもこいつの男にはなれねーぜ?お互い後をつけられて会話を聞かれてる可能性があんだろ?」

「そうなんでさァ。だからここは、」

「…ハッ!!俺か!!ついに俺の出番か…!もちろん喜んで引き受けるぞ!!しかし前もってお妙さんに事情を話しておかねば、」

「残念ながら近藤さんもダメでさァ。」

「なんでェェ?!?!」

「そういうやつは、きっとこいつの周りの人間、一通り調べつけてやす。あんたが毎日、姐さんを追いかけ回してることがバレてる可能性の方が高ェんでさァ。」



なるほどな…といって妙にしゅんとする近藤さん。じゃあ、一体誰が?という近藤さんの問いかけに、まさかの声が上がった。



「…俺がやる。」



土方さんはそう言って、ここにきてはじめてタバコを一本吸い始めた。



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