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ようこそ三日月堂へ!

平凡の終わり



第84話



道中はバイクの騒音のせいもあり無言で帰路についた。銀さんがエンジンを切って、ヘルメットを脱いだのを確認してから、私もヘルメットを脱ぐ。銀さんは私からヘルメットを受け取ると、そのまま、私の腕を支えながら、バイクから降りるのを手伝ってくれた。



「あの、銀さん…いつから待ってたんですか?」

「べつに。体が少し冷える程度?」

「だっ、!だめじゃないですか!!よかったら温かいお茶でも入れるので、上がっていってください!!」



メールの受信時刻から考えれば1時間は余裕で待ってたはずだ。まだ怪我も完治していない病み上がりの銀さんを、知らなかったとはいえ、長く外で待たせていたなんて、申し訳なさが爆発しそうで、私は強めに銀さんの背中をぐいぐい押しながら玄関に向かい、カバンの中から鍵を探す。



「っと、その前にすいません!」



そう断ってから、玄関横のポストに手を伸ばし中を確認する。仕事柄、大事な書類が届くことが多いので、郵便物のチェックは毎日必ず朝と夕方することにしているのだが、



「…え、なにこれ。」

「どうした?」



いつものようにポストには、仕事関係の郵便物と、町のチラシ、それらに紛れて2通、ポストカードが入っていた。表の宛名には三日月堂名前様と私の名が書いていて、差出人は書いていない。裏を向けると、たった一言のメッセージが真ん中に書かれていた。



「"気をつけて、惑わされないように"?」

「…。そっちは?」

「あ、…"無事に、おかえりなさい"…。」



2通目も表は同じで裏も同じ場所に一言メッセージが書かれているが、内容の意味はわからない。そもそも、差出人が不明で、宛先も私の名前だけで、住所はなく消印もない。つまりは、これは誰かが直接、家のポストに投函したものということになる。



「っ…!」



意味の分からない気持ち悪さが込み上げて、何かを押さえ込むように私は自分の口を押さえた。その衝動で私の手から2通のポストカードが地面に落ちる。銀さんはそれをゆっくりと拾い、少しの間眺めた後、ポケットにしまった。



「名前、今日は俺ん家にこいよ。神楽も久々にお前と話したがってるし。お泊まりの準備していこうぜ。」



な?といって銀さんは私から玄関の鍵を奪い、勝手に家に上がり込んで私の手を引いた。それから銀さんに見守られながら、必要最低限のものをカバンに詰め込んで、私は再び銀さんのバイクに乗り込んだ。





「…やっと寝た?」

「ふふ、やっとです。とっても楽しそうにしてくれて、こっちとしても、助かりました。」



隣ですやすや眠る神楽ちゃんの前髪をそっと触る。あれから銀さんに連れられて万事屋にお邪魔し、夕飯は万事屋のみんなとお登勢さんのところでご馳走になった。どうして急にお泊りアルか?という神楽ちゃんの素直な質問には、どう答えていいか分からずにいると、銀さんはお前と遊びたかったんだと、とフォローをいれてくれた。



「新八くんは?」

「こっちで寝てる。」



いつもなら新八くんは夕方には、お妙さんのいる自分の家に戻るらしいのだが、今日はせっかくだからと万事屋に同じく泊まっていってくれた。ふたりとも怪我はだいぶよくなったらしく、ボードゲームをしたり、テレビ見て笑ったり、久々に独りじゃない楽しい夜をみんなで過ごした。



「けど、ふたりとも見た目よりもおとなですから、きっと色々察してわたしに気を遣ってくれていたように思います。」

「…こっちで晩酌しよーや。」



銀さんに招かれるまま、私は神楽ちゃんと一緒に入っていた布団から抜け出し、居間へと向かう。ソファーのところでは、新八くんが気持ちよさそうに寝ている。私はそっと、ズレかけている毛布を肩までかけてあげた。



「ここで晩酌したら、新八くんの安眠を邪魔しちゃいますよ。」

「台所んとこ。」



そのまま居間を抜けて、玄関横にある台所へとふたりして向かう。銀さんはそのまま冷蔵庫から缶ビールを2本出して、私にひとつ渡してくれた。



「見合い、どんな相手だった?」

「総悟のお見合い相手ですか?んーっと、第一印象は可憐なひと。近藤さんも鼻の下が伸びきってたので。」



想像つくわといって銀さんはおかしそうに自分のビールをあけた。私も今日の出来事をことをぽつぽつと話しながら、キンキンに冷えたビールを喉に流した。





「じゃあ、ちげぇな。」



私の話を一通り聞き終わった銀さんはそう一言漏らした。それが何を意味するかは聞かなくてもわかる。私も、その可能性を一瞬は考えた。けど、おそらく違う。



「…心当たりは?」

「……お嬢様なら、私に敵意を向けるはず。けど、あれは……、私に対して…、好意があるように思えます。」

「…だな。」



ガコン。と、銀さんが缶ビールを潰した音が台所に響く。私は目線を下げたまま、自意識過剰かもしれないけども、最近好意を感じたことがあることを、銀さんに話した。



「そいつといつ会って、どんなこと話したか、話せる?」



あと、もう一本ビール飲む?といって銀さんは冷蔵庫をあけた。私は手に持っているビールをぐいっと飲み干し、お言葉に甘えて。といって、もう一本ビールをもらった。



今夜は呑まないと眠れそうになかった。





あれから銀さんとは夜遅くまで晩酌をし、日付が変わった頃に神楽ちゃんのいる布団に戻った。銀さんは新八くんと一緒に居間のソファーで寝たらしい。そして朝は、新八くんが用意してくれた朝ごはんを食べながら、みんなで朝のニュースを観ていると、そろそろ仕事の準備をしないといけない時間だと気がついた。



「ごめんね、新八くん!お世話になったのに後片付けできなくて…。」

「いえいえ!名前さんはお仕事頑張ってくださいね!」

「…ありがとう。今度、美味しいもの食べに行こうね。」



そういって新八くんと神楽ちゃんに挨拶をし、銀さんと一緒に万事屋を出る。正直、家に帰りたくはないが、今日はお店の営業日。商品入荷もしっかりある。帰らないわけにはいかない。



「銀さん、万事屋の仕事は大丈夫ですか?」

「あいつらがしっかり留守番するから大丈夫だろ。」



なるほど、お留守番ってことは仕事がないのか。それならいっそのこと、私が今から万事屋に依頼をしたら受けてくれるだろうか。この不安と恐怖は、さすがにひとりでどうにかできる気がしない。



「とりあえず帰るぞ。」



でも、私が直接依頼をしなくても、銀さんは何も言わずにこうして家まで送り届けようしてくれるし、ちょっと確かめることがあるといって、しばらくはお店に一緒に滞在してくれるといった。私は銀さんの声かけに頷き、昨日と同じく、銀さんのバイクの後ろに乗り込んだ。



「…名前、まず家に着いたら、昨日と同じようにポストを確認しろ。もしまたあれが入ってたとしても、反応せずに店に入れ。俺は一旦帰るフリするけど、家の勝手口から入るから、連絡したらあけろよ。あぁ、あと、一言も発するな。いいな?」



それだけいうと銀さんはバイクを走らせたので、私は返事の代わりに、背中に回した手に力を少しいれた。





三日月堂の前に着くと、銀さんは本当にじゃあなーといって一旦帰るフリをした。私は言われた通り、ポストから郵便物を取り出してから、表情を崩さずに家の中にはいる。



「……。」



それからお店側に回り、今日の荷物を確認する。うん、これくらいなら今からでも間に合う。仕事の確認をささっと終わらしてから居間に戻りケータイをみると、銀さんからメールが入っていた。私はそれに返事をしてから、台所近くにある勝手口のカギをあけた。



「(…銀さん、)」



勝手口に立っていた銀さんは、口元に指を立ててしぃーっとしながら、家に入ってきた。そしてそのままお店へと向かったので私も後をついていく。こればかりは銀さんが何を考え、何をするのか分からなかったが、銀さんを信頼しているので、私は言われるがままに従おうと思っていた。



「(でも、本当に何を?)」



いつのまに用意していたのか、銀さんは大きめの風呂敷を持っていて、中からよく分からない機械を取り出した。そしてそれをお店の棚に向けてゆっくりと店内を回る。そしてあるところで機械からピーッと音が鳴り、突然の音に私は思わず肩をビクッとさせてしまった。



「(びびびびびっくりした…っ!)」



銀さんは音が鳴った棚から本を無造作に取り出し、何かを手にしたかと思えば、また同じように店内を回り出す。そして一周を終えて、そのまま、また家の中に入る。その時、銀さんに耳打ちで全部の部屋覗いていい?と聞かれたので、私は考える間もなく咄嗟に頷き返した。



「終わったぞー。」



そうして、銀さんが部屋を見て回っている間、特に指示もなかった私はお店の開店準備に入り、もう少しで開店時間だという頃に、部屋の奥から銀さんから声がかかった。そして、これといって見せられたのは、



「盗聴器、店に一個だけあったわ。」



思わず、立ちくらみがした。



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