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結果良ければ全てよし?



第83話



「自分の隣にふさわしいのは総悟だと?ずいぶんと上からの物言いですが、私からすれば総悟の隣にあなたが相応しいとは思わないし、恥ずかしい思い上がりだと思います。」



そういうとお嬢様はもちろん、隣の近藤さんも思わず名前ちゃん?!と私の名前を呼んでしまった。



「ちゃんと総悟のことを知らず、総悟達の、真選組のみなさんのお仕事も十分に理解されていないのなら、地位も名誉も美貌も兼ね備えていても、総悟の隣でなら、あなたのそれらはお飾りにすらならない。」



むしろ不要でしかない。そういうと、お嬢様は顔を真っ赤にして失礼な!!といって席から立ち上がった。その衝撃で目の前においてあったお茶の湯呑みが倒れる。



「総悟はあなたのお飾りになるような男じゃない。だから、手を引いてもらいたい。あなたが誰からも選ばれない理由は、あなたが好きと言う感情を履き違えているからですよ。」



誰からもを強調すると、それが地雷だったらしく、こんな馬鹿げたお見合いはこちらから願い下げです!!といって、お嬢様はずいぶんと荒い足音をたてて部屋から出て行った。近藤さんは呆気にとられていたが、すぐに正気に戻り、念のため様子を見てくる!といってお嬢様を追いかけていった。入れ違いで土方さんが入ってきたが、その顔はずいぶんとおかしそうで、お前…といって、そのまま顔を伏せて肩を震わせた。



「……これ、成功?ミスった?」

「俺としては大満足でさァ。」



隣の総悟も言うように大満足の顔をしており、当人がいいなら成功なんだろうと思ったが、お嬢様を怒らせて丸く収まるなんてことがあるんだろうか。これはもしや、やらかしてしまったのではないかと、私はじわじわと冷や汗が出るのを感じていた。





「いやぁ!ほんっと!名前ちゃんの度胸には頭が下がるよ!」



そういって近藤さんは豪快に笑って、私に労いのお茶を出してくれた。私はありがとうございますといって湯呑みを受け取り一口飲んだが、どうも苦味を感じる。



「あの、…本当に大丈夫なんでしょうか…。余計なことした気がしてならないんですが…」

「あちらさんが見合いを続けたい意思はもうねぇんだから、問題ねぇよ。」



そういって近藤さんの隣に座っている土方さんも、おつかれさんといって椿さんにお茶菓子を持ってこさせた。けど、目の前に差し出された豪華なお茶菓子の前でも、私の気分は優れない。



「でも、長官さんは…お怒りではないですか?自分の愛娘さんのお友達ですし、何より自分が仲を取り合おうと、」

「それも問題ねぇでさァ、俺の相手がおめぇだと知った途端、そっちの方がいいじゃねーかと、とっつぁんも認めたんでね。」



だから今日も来てねぇんでさァといって、総悟は私に差し出されたはずのお茶菓子に勝手に手を伸ばした。案の定、土方さんに注意されていたが、気にせず食べ始める。



「…そうなんだ。」



ならいっそのこと、このお見合い自体をなかったことにすればよかったのと思ったが、それだといつまで経っても総悟にお嬢様がついて回る。結果的に、総悟からお嬢様を離せたのだから、確かにことは収まった。私はお願いされたことを全うできたということだ。



「…おめぇのことだ、相手を傷つけたとかなんとか思ってんじゃねーのかィ。」

「それは、ない。」



おまんじゅうを頬張っていた総悟の口がとまる。土方さんも私の返事が意外だったらしく、俺もてっきりそうかと思っていたと言われた。けど、私はそんなできた人間じゃない。


 
「傷つけてきたのはあっちが先です。総悟や土方さんのこと、あんな風にいって…。土方さんが冷血?どこが!周りをみて損な立ち回りだってこなしてしまうほど優しい人なのに…!総悟のことだって、物みたいな言い方!!なにひとつ、総悟の内面で好きなところ言わなかった!!あれはひどいと思う!」



思い出したらまた腹が立ってきた。それが声のボリュームに出ていたらしく、近藤さんはまぁまぁ落ち着いてといって、私の口にポンっと、甘いおまんじゅうをいれてくれた。



「名前ちゃんは、やっぱり笑ってる姿がいいな。お嬢様だってそりゃ綺麗だったけども、名前ちゃんの屈託のない笑顔が一番眩しいよ!俺たちのこと、すごく大切に思ってくれてるんだなーってことも、感じた!俺はそれが一番嬉しかった!!!」



近藤さんの言葉に続くように土方さんもそうだなと頷き、総悟もそうでさァと続いた。



「途中、猫被りをやめて、総悟って呼ばれるたびに愛を感じやしたぜ?」

「あ、っ!!!愛って!そんな大袈裟な!!!」

「いやいや!あれは立派な俺たちへの愛だな!!ほんとそうだ!!ありがとうな、名前ちゃん!!」



でも近藤さんの鼻の下は伸びてやしたけどね、と総悟に言われ、近藤さんはそそそそんなことないぞ!!と慌てふためいていた。そんなふたりの姿を見て私もやっと笑えるようになり、近藤さんが食べさしてくれたおまんじゅうが、とっても美味しいことに気がついた。

それでもなんだか胸につっかえるものがある気がしてならないのは、なんでだろう。





「そろそろ帰りますね、仕事もありますし!」



緊張が解けたら一気にお腹が減り、近藤さんと土方さんのご好意に甘えて、私は総悟と一緒にお茶菓子を食べながら少し雑談をし、キリのいいところでそろそろ帰ることにした。



「あぁ、今日は一日悪かったな。」

「いえいえ、お茶菓子美味しかったです!ごちそうさまでした!」

「またちゃんとしたお礼はするからね!名前ちゃん、なに食べたいか考えといて!」

「近藤さんもありがとうございます!」



これだけでも十分なのだが、ここは遠慮して断るよりもお誘いをお受けした方がいいと思い、素直にお礼を伝えた。それから、総悟がお店まで送ってくれると言ってくれたのも、断るときっと総悟も土方さんも怒ると思い、私はお願いしますと総悟と一緒に部屋を後にする事にした。



「部屋で椿さんが待ってらァ、着物脱がしてもらえ。」

「ありがとう!」

「…こっちのセリフでさァ。」

「ん?」

「助かった。」



素直に総悟にお礼を言われると妙にくすぐったい。けど、お役に立てたようで良かったというと、総悟は嬉しそうにはにかんだ。前に一緒にモーニングをした時のような、柔らかい笑顔で、私は何気に総悟のこの表情が、年相応の総悟の本当の笑顔な気がした。



「でも俺ァてっきり、俺のことが好きすぎてパターンでいくと思ったのになー。」

「ベタ惚れ設定だったもんね。でも、総悟が教えてくれたんだよ、相手はプライド高いから下手にいっちゃダメだって。」

「…それで、俺のことがどうとかよりも、相手の気持ちを炙ったわけか。」

「まぁ、手っ取り早いかなと。」



その場のノリでいけたのが逆に良かったのかもしれない。ともあれ、うまくいってよかった。私が改めてそういうと、総悟は何かを考える素振りをして、そしてそっと私の横髪に触れた。



「ん?なに?」

「俺は、とっくに選んでやすぜ。」



あまりにも唐突に、真剣な表情と声のトーンで言われ、思わず私は歩いていた足を止めてしまった。



「…な、」

「あら、おふたりとももう戻られたのですか?」

「…あぁ、椿さん。」



何をという言葉を言うまえに、前からこちらに歩いてきた椿さんに声をかけられ、総悟は私の横髪から手を離し、私も少しだけ総悟から距離をとった。



「椿さん、こいつの着物頼みまさァ。家まで送っていくんで、準備が終わったら声かけてくだせェ。」

「わかりました、では名前さんいきましょうか。」



そうして私は椿さんに背中を押されるまま、部屋に戻り、綺麗な着物を脱いで、いつもの服装に戻った。ついでに化粧を落とすかと聞かれたが、熱い顔をあまり触られたくなくて、私はこのまま帰りますと椿さんに伝えた。





「…ごめん、お待たせ。」

「おう。んじゃ、帰るか。」



妙な空気のまま総悟と一緒に屯所を出る。ひんやりとした冷たい空気が心地いい。まだ私の顔は赤いだろうか。総悟に変だと気づかれていないだろうか。意識的に総悟と目が合わせられず、俯き加減でいると、おいと横から声をかけられた。



「…え、銀さん…?」

「旦那、んなとこで待ち伏せですかィ?」

「店閉まってるし、メールしたけど返事ねーから。もしやと思ってその辺でカバディやってるやつに聞いてみたら、案の定、お見合いやってるって聞いてな。」



カバディ?え、メール?私は訳がわからないまま、ひとまずカバンからケータイを取り出して画面をチェックすると、確かに新八くんからの名前で、どこにいんの?といったメールが届いていた。



「沖田くん、こっからは俺が送ってくわ。」

「なんでィ、旦那。どういう風の吹き回しですかィ?」

「べっつにー?ああ、あとお見合いはうまく阻止できたの?」

「あ、うん、なんとか…」



なんでここに銀さんがいるのかとか、どうしてわざわざ銀さんが送ってくれるのか、いろいろ頭が混乱してうまく返事が返せないでいると、銀さんはそうだそうだ、沖田くんさァ〜といって、急に総悟の肩を抱き、私に背を向けて何か耳打ちをしだした。



「…わかりやした。名前、近藤さんがいうようにお礼はまた今度な。」

「あ、うん。」

「じゃ、旦那も。」



総悟はそういって手をひらひらさせて屯所の中に戻ってしまった。私は訳がわからず、なんで?と眉間に皺を寄せたが、銀さんは気にする様子もなく、そっと私の手を引いた。



「バイクだから、ヘルメットかぶってくれる?」

「…あの、」

「はいはい、これね。かぶったら後ろ乗って。ちゃんと捕まってろよー。」



銀さんに言われるがまま、私はヘルメットをかぶり、そのまま銀さんの後ろに乗り込む。問答無用で手は銀さんの腰に回され、私が何かを言う前に、バイクにエンジンがかかった。そして、銀さんは行くぞー。といって、ゆっくりとバイクを運転しだした。



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