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ようこそ三日月堂へ!

嵐の前の静けさ



第81話



土手の上からこっちに降りてきた総悟は、今日はいい天気ですねェなどといって、遠慮なく私と銀さんの間に入ってきた。



「…なんの用?」

「旦那に用はねェんですけどね、こいつに用があるんでさァ。」

「へ?でも時間は夜って、」

「もう夕方でさァ。」



いや、用事が終わったらこっちから連絡するって言ったじゃんか…と軽くケチをつけると、総悟は座ってる私の脚をこつんと蹴ってきた。…いつになく理不尽!



「そういや用事あるって言ってたな、おふたりさんでまたデート?」



やたらと”また”を強調してそう言った銀さんに対し、総悟がおそらくそうだと答える前に、私は自分が思ってた以上の声のボリュームで、ちがう!!と答えていた。



「「……」」



自分でも驚いたがそれ以上にふたりも驚いた様子で、私は慌ててその、あの、と、しどろもどろで何を話していいか頭をぐるぐるさせていた。ちがうと否定したことの自分の気持ちを話すべきか、それともデートではない用事の内容を話すべきか。



「…俺がこいつに頼んでることがあるんでさァ。」

「おまわりが一般市民に依頼って、なになに、どんなにやばい内容なの?」

「半分は仕事の立場ですが、半分は俺個人の依頼でさァ。旦那には縁の遠い話ですがね、こうみえて俺らはちゃんとした組織に属している立派な公務員でしてねェ。」

「おい、ちゃんと、とか、立派とか、強調して煽ってんじゃねーよ、こっちだってなぁ、ちゃんとした立派な大人やってんだよ、お前より長く人間やってんだよ。」



いや、それなんか違う。という私の心のツッコミを口にすることはなく、総悟は意外にも銀さんに自分がお見合いを受けること、それを断るために私に偽の恋人役を頼んでいることを話した。てっきりこれは内密情報だと、いや確実に内密情報なのに、銀さんには言ってもいい様子で、それはふたりの関係性を表しているようだった。



「…ふぅん、なるほどな。」

「ってことで、打ち合わせしてぇんで、そろそろこいつ借りていいですかィ?」

「おー、こっちも服も靴も乾いたしな。名前、いいぞ。」

「えっ、あ、…」

「……これ、神楽と新八にだろ?ありがたくいただくわ。」



そういって銀さんは私がパチンコでの勝利品を手に取り、よっこいせ、といいながら靴を履き直した。



「ご、ごめんなさい、」

「…なんであやまってんの?」

「なんだか、ちゃんと…その、」

「んな気にすんな、またちゃんとデートしてやっから。」

「なっ?!?!」



こんな風にお出かけが終わるのは、あまりいい気がせず、誘ってくれた相手にも相当失礼なんじゃないかと思い、素直に謝ったのに、銀さんは本当に気にもしていない様子で、いつもの軽口をつきながら、私の頭を乱暴に撫でた。だけど、



「…なぁ、名前。」

「はい?」

「何かあったら迷わず俺に連絡しろよ。新八のケータイ、借りとくから。」

「え、」



耳元でそっとそう呟いた銀さんの表情を伺うと、真剣というよりかは、妙に心配そうで、私は思わず眉を顰めてしまった。けど、銀さんはそれ以上何も言わず、総悟にも軽く挨拶をして、そのまま手を振って万事屋の方へと歩きだしてしまった。



「…言っときやすが、邪魔したくてしたわけじゃねェ。お前んとこ向かう時に見えたから、」

「あ、うん、こっちこそごめんね、もう夕方だったんだね!ちゃんと時間気にしてなかった私も悪いね。」

「…それほど楽しかったってことですかィ。」



最後、総悟が何かを言った気がしたが、風が吹いたせいで私の耳には届かず、行きやすか、といって歩きだした総悟の隣を私はそっと歩きだした。



「話の内容的に誰にも聞かれたくねーんで、お前ん家行でいい?」

「うん、そうだね。じゃあスーパー寄って行ってもいい?家に何もないから…。好きなものよかったら作るよ。」

「そりゃ、いいや。」



なんとなく総悟との打ち合わせは、私の家になるような気がしていたので、もしそういう流れになったら一緒に買い物ができるよう、前もって財布の中身も少し厚めにしておいた。そんな私の返事に総悟も気を良くしたようで、何をおねだりしてやろうかなどと、ちょっと恐ろしいことを言われていると、突然背後から名前さん?と、名前を呼ばれた。



「…藤堂さん?」

「驚きました!今日はお休みですか?」



私のことを呼び止めたのは、こちらをみて嬉しそうな顔をしていると大江戸書店の藤堂さん。この前、連絡先を書いた名刺を渡してきた日以来だ。



「またおめェか。」



そういって隣の総悟が小さく舌打ちするのが聞こえ、私は咄嗟に私はこら!といって、総悟の腕をトンっと叩いた。



「……真選組の沖田さんも前にお店でお会いしたぶりですね!ふたりはこうしてお店の外で会うほど、本当に仲がいいんですね!」

「あんたに関係ね、」

「そうなんですよ!これからふたりで買い物する途中なんです!」



総悟の言葉を遮ってまで、私が少しうわずりながら返事をしたことを、総悟なら一瞬で変だと勘づいたに違いない。けど、ここで会話を不自然に終わらすわけにはいかない。スムーズに、ことを終えてしまいたい、そんな私の気持ちに気がついたのか、



「名前、そろそろ行きますぜ。」

「あ、うん!」



総悟は、瞬時に私がこうしたいということを汲み取ってくれた。そんな総悟に安堵しながら、流れをそのままで、藤堂さんもお気をつけてといって、その場を去ろうとした時、藤堂さんが、あの、と切り出した。



「名刺、みてもらえましたか?」



私の胸がどくんとなる。あの日、土方さんに相談してから自分でも考えた結果、連絡はとらないことにした。ただ、連絡先が書いてるなんて気付きませんでした、は通用しない。裏を見て欲しいと言われたし、でかでかと名前と番号が書かれていた。



「はい!連絡先ありがとうございました!もし棚や商品の仕入れについて悩むことがあれば、大江戸書店さんはどうしているのか、相談させてもらいますね!」



だから、次に藤堂さんに会った時、連絡がないことを聞かれたとき、どう答えるべきか。私はちゃんと言葉の用意をしていた。何度もシミュレーションしたその言葉を、うまくすんなりと言えた今の自分に拍手を送りたい。



「…あはは、そうですね!遠慮なく頼ってくださいね!三日月堂さんになら、いえ、名前さんにならいくらでも情報は流しますし、よかったら大手版元には融通を利かせれますよ。」



僕、こうみえても勤務年数は長くて仲の良い営業の方もいるので。といって藤堂さんは、相変わらず屈託のない好青年の笑みを浮かべていた。だけど、どことなく違和感があって、私は自分の自意識過剰が、間違いではない気がした。



「それじゃあ、お友達さんとごゆっくり。また僕もお店に行きますね!」

「…はい。それでは。」



藤堂さんが去っていくのと同時に私と総悟も反対方向へと歩き出した。総悟はなにも聞いてこない。私は心の中で感謝と、お詫びに今日の夕飯は盛大なおもてなしをしようと、財布の中の金額を頭の中で思い出していた。





「酒あけていいですかィ?」

「どうぞー、先にお刺身持っていくね。」



総悟に何を食べたいかを聞くと意外にもお酒とつまみでいいと言われたので、未成年の年下にそのおもてなしはどうかと一瞬躊躇したが、今更な気もして私は言われるがまま、ちょっと高めの日本酒と、おつまみになりそうなものを適当にスーパーで買って帰宅した。



「で、どういう設定でいくの?」

「そのまんまでさァ。変に嘘つくとボロがでんだろ、おめぇのことだし。」

「まぁ、演技しろって言われるとちょっと難しいけど…。そのまんまってことは、私は三日月堂の店主で、お店で知り合って、そう言う風になったってこと?」

「そ。で、お前が俺にベタ惚れ。」

「まじか。」



そこは総悟が、の方がお見合いを断るには都合がいいんじゃないだろうかと思ったが、総悟的には私の方がいいらしい。相手のことをよく知っているの総悟の方なので、私はそれに従うことにした。



「ほかは?」

「あとはその場のノリでィ。」

「打ち合わせとはいったい。」



けど、そこから総悟は美味しそうに酒を呑んだり、作ったつまみを素直に美味しいといいながら、相手のことをよく教えてくれた。つまりのところ、プライドの高い女性。そこをうまくへし折れば、ことはうまくいくと言う。



「おめぇが少しでも下手にいけば、終わりでさァ。」

「…うまくいく気がしないけど、でも…ちゃんと頑張るよ。」



すっごく気が重いけど!!と言いながら、私も総悟と一緒の日本酒を呑む。それから一番大事なことを聞き忘れていたことを思い出し、そういえばさ、と総悟に切り出す。



「お見合いっていつなの?」

「あした。」


…。
一瞬無の空気が流れる。いやいや、聞き間違い?空耳?



「いつなの?」

「明日って言ってんだろ。」



本当に、目の前で美味しそうに酒を呑んでいるこの人はなんなんだろう。信じられない思いで、私は何も言わず、手に持っていた酒をぐいっと呑みほした。



呑んでないとやってられない。



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